2014 Fiscal Year Annual Research Report
幸福感に関連する共感性の分子・神経基盤の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Empathic system |
Project/Area Number |
26118513
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
松永 昌宏 愛知医科大学, 医学部, 講師 (00533960)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共感性 / 幸福感 / 社会医学 / 衛生 / fMRI / 内側前頭前皮質 |
Outline of Annual Research Achievements |
カリフォルニア大学のファウラーらの研究によると、自分の周りに幸せな人が多くいる人は、自身の幸福度が将来的に上昇する確率が高くなるという。また、近くにいる親密な友人の幸福度が自身の幸福度に最も影響を及ぼすという結果も出ている。
私たち人間には、他者の内的状態を知り、他者が感じるのと同じように感じることができる「共感性(empathy)」という能力が備わっている。スタンフォード大学のモレリらは、他者のポジティブ感情を共有し、称賛し、楽しむ能力を「positive empathy」と名づけているが、これらの先行研究を踏まえると、positive empathyの能力が自身の幸福感を上昇させるために非常に重要であることが予想される。
今年度、磁気共鳴画像装置(MRI)を用い、こちらが提示するいろいろな出来事に遭遇した時のことを想像してもらい、その際の自身の幸福度はどれくらいかを評価してもらうという、場面想定法を用いた共感性課題を実験参加者(健康な女性大学生21名)に実施していただいた。提示する場面の中には、幸せそうな友人と一緒に出来事を経験する場合と、友人は関係なく1人で出来事を経験する場面があり、幸せそうな友人がいる場合とそうでない場合を比較し、幸せそうな友人により自身の幸福度が上昇するか、そしてその神経基盤は何か、ということを検討した。実験の結果、①自身の幸福度に関連して腹内側前頭前皮質の活性化が確認された。②幸せそうな友人がいることにより自身の幸福度が上昇した。③幸せそうな友人がいる場面において、背内側前頭前皮質の活性化が確認された、という3つのことが示された。これらの結果から、他者の幸せを感知する脳領域は背内側前頭前皮質であり、背内側前頭前皮質と腹内側前頭前皮質との機能的ネットワークにより、他者の幸せが自身の幸せに変換されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カリフォルニア大学のファウラーらにより見出された、他者の幸せが自身の幸せに変換される現象をMRI実験内で再現するために、平成26年度中に適切な心理学的課題の選定と、それを用いたMRI実験の実施を計画していたが、特に問題なく研究を遂行することができた。
また、適切な心理学的課題の選定中に、当初予想をしていなかった興味深いデータも得られた。MRI実験に使用する課題の選定のため、MRI実験の実施前に場面想定法を用いた共感性課題を、健康男女大学生25名に実施していただいた。この共感性課題では、自分と、仲の良い友人とが、2人同時に同じ出来事を経験する場合を想像してもらうのであるが、自分と友人の状況を、①自分ポジティブ/友人ポジティブ、②自分ポジティブ/友人ネガティブ、③自分ネガティブ/友人ポジティブ、④自分ネガティブ/友人ネガティブの4種類とし、この4条件において自身のポジティブ気分はどのように変化するかを評価していただいた。①の状況のポジティブ気分評価スコアから②の状況のポジティブ気分評価スコアを差分したスコアは、友人のネガティブな状況に対する共感性(empathic concern)、③から④を差分したスコアは友人のポジティブな状況に対する共感性(empathic joy)を示すものと考えられるが、本研究では、empathic concernもempathic joyも、個人の特性的な主観的幸福感と正の相関があると想定していた。しかしながら、time pressureを与えた共感性課題を実施させたところ、予想に反して主観的幸福感とempathic concernとempathic joyの数値が有意な負の相関を示したのである。このことは、共感性が高すぎる個人はburnoutを起こしてしまい、逆に幸せではなくなってしまう可能性を示唆するものである。次年度でより詳細に検討していきたい
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Strategy for Future Research Activity |
今年度実施したMRI実験を次年度も継続して行い、実験参加者を50名程度にする。その後、遺伝子多型解析と唾液中ホルモン分析を行い、positive empathyの神経回路(内側前頭前皮質)との関連を明らかにする。
先行研究においてオキシトシン受容体遺伝子多型(OXTR)は共感性と関連し、rs53567 GG遺伝子型の個人は、AA/AG型の個人と比べて他者の心の状態を認知する能力が高いことが示されている(Rodrigues et al., PNAS, 2009)。このことから、rs53567 オキシトシン遺伝子多型は、positive empathyの神経回路を調整する可能性がある。さらに、先行研究においてカンナビノイド受容体遺伝子多型(CNR1)は他者の笑顔に対する感受性に関連しており、rs806377 CC遺伝子型の個人は、他者の笑顔を見ることで脳内報酬系である線条体が強く活性化することが示されている(Chakrabarti et al., European Journal of Neuroscience, 2006)。このことから、rs806377カンナビノイド遺伝子多型も、positive empathyの神経回路を調整する可能性がある。OXTRやCNR1におけるこれらの可能性について検証する。
続いて、安静時唾液中性ホルモン・カンナビノイド・オキシトシン濃度と内側前頭前皮質活動との関連を見る。唾液中女性ホルモン・カンナビノイド・オキシトシン濃度と内側前頭前皮質活動との間には正の相関が、唾液中男性ホルモン濃度と内側前頭前皮質活動との間には負の相関があることが予想される。
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Research Products
(3 results)