2014 Fiscal Year Annual Research Report
他個体に対する援助行動の神経メカニズムの解明
Publicly Offered Research
Project Area | Empathic system |
Project/Area Number |
26118514
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 暢哉 関西学院大学, 文学部, 教授 (70465269)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 向社会的行動 / 援助行動 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究には二つの目的がある.一つは,共感性を動機として生じると考えられている向社会的行動の神経機構についてニューロンレベルで明らかにすることであり,もう一つは,向社会的行動を簡便に出現させることのできる実験パラダイムを開発することである. 本年度は,ラットにおいて援助行動を誘発する実験課題を確立した.ペアで飼育したラットの片方を浸水環境に晒し,他方がその嫌悪的状況から同居ラットを解放する行動を誘発させた.具体的には,透明のアクリル板によって二つの領域に区切られた実験箱を用意し,片方の領域に水を張った(プール側).もう一方の区画(陸側)の仕切り壁の中央には円形のドアを取り付け,このドアを開けることによって二つの領域を行き来できる状況を作り出した.被援助ラットをプール側に入れ,陸側に入れた援助ラットが,ドアを開け被援助ラットをプール側から解放する行動を標的とした課題を設定した.課題を何度か繰り返すうちに,援助ラットはドアを開けるまでの潜時を短くしていき,水に晒されている同居ラットをその状況から解放することがドア開け行動を強化することが示された.また,プール側に同居ラットがいない状況ではドア開け行動の潜時が延長,あるいはドアを開けなかった.さらに,同居ラットが水に晒されずに陸にいる場合は,ドア開け行動が学習されることはなく,同居ラットが嫌悪的な状況にあることがドア開け行動の誘発に必要であることも示された.以上のことから,本研究で用いた課題によって,嫌悪的な状況にある同居ラットへ共感を通して,その嫌悪的な状況から解放する援助行動を出現させることができたと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の初年度は,これまでに行ってきた援助行動を誘発する実験事態について,その手法を確立し,当該課題で観察できるラットの行動が向社会性を示していることを実証していくこと,およびそのために,いくつかの統制課題を用いて,様々な側面からアプローチすることを計画していた.新たに,同居ラットが水に晒されずに陸にいる場合において,援助行動に当たるドア開け行動が学習されることはなく,同居ラットが嫌悪的な状況にあることがドア開け行動の誘発に必要であることを示すことができ,当初の計画はおおむね達成されたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでに確立した実験パラダイムを使用して,援助行動の神経メカニズムを検討していく.援助行動を行っているラットにおいて活性化している脳領域について,神経活性化のマーカーであるc-fos遺伝子の発現によって同定する.これにより明らかになった脳領域から,単一ニューロンを記録し,ドアへの接近行動,ドア開け行動,被援助ラットとの接触など,援助ラットの示す特定の行動や,実験箱内の位置や向きなどとの相関に着目して解析する. また,特定の物質を用いた薬理実験を行う.オキシトシン,バソプレシンといった神経ペプチドの受容体のアゴニストあるいはアンタゴニストを投与し,援助行動に与える影響について検討する.被援助ラットへの接近行動,ドア開け行動の出現率や,出現までの潜時などの面からパフォーマンスを評価・検討する. 可能であれば本新学術領域研究の他の研究班と連携し,活性化している脳領域を光遺伝学的に操作することを試みる.対象領域を光遺伝学的手法により興奮あるいは抑制することが援助行動に与える影響を検討する.
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