2014 Fiscal Year Annual Research Report
記憶に時を刻む海馬新生ニューロン
Publicly Offered Research
Project Area | The Science of Mental Time: investigation into the past, present, and future |
Project/Area Number |
26119502
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大原 慎也 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10570038)
|
Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2016-03-31
|
Keywords | 新生ニューロン / 狂犬病ウイルスベクター / レトロウイルスベクター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、狂犬病ウイルス(RV)ベクターとレトロウイルスベクターを組み合わせた神経回路選択的遺伝子導入法を用いて、時間情報の記憶における海馬新生ニューロンの役割を明らかにすることを目指した。平成26年度は、より効率的に実験を進めるため、この遺伝子導入法の改良を行った。具体的には、RVベクターの経シナプス性感染伝播効率(ウイルス産生効率)を向上させるため、レトロウイルスベクターによって導入するRVのG蛋白質を弱毒株(SAD株)から固定株(CVS)由来のものへと変更した。さらに、ウイルスゲノム上の外来遺伝子の位置を変更したRVベクター(rHEP3.0-delG)を作製した。このウイルスベクターは、これまで用いてきたRVベクター(rHEP5.0-delG)より外来遺伝子発現能は低いものの、高いウイルス増殖能を示す。これらの改変を行うことで、RVベクターの産生効率を向上させることに成功した。 また、rHEP3.0-delGの外来遺伝子発現能を向上させるためにRVベクターの遺伝子発現機構を調べ、RVのL蛋白質とG蛋白質が外来遺伝子発現量に関与することを明らかにした(現在、論文投稿中)。この結果を受け、現在、より高い外来遺伝子発現能を有するRVベクターの開発を進めている。 また、上述した手法の改良と並行して、RVベクターを用いて海馬CA1領域への入力経路を解剖学的に調べた。海馬CA1領域は、時間細胞が分布し、テンポラルアソシエーションに関与することが報告されていることから、時間情報の記憶に重要な役割を果たしていると考えられている。これまでの研究で、前頭前野から視床結合核、または嗅内皮質3層を介して腹側海馬CA1領域に投射すること、また前海馬支脚と帯状回皮質から嗅内皮質3層を介して背側海馬CA1領域への投射があることが明らかになった。これらの知見は、海馬における時間情報の記憶形成機構を理解する上で重要な基盤情報になると期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は、二つのウイルスベクターを用いた神経回路選択的遺伝子導入法を研究手法の主軸として実験を計画していたが、当該手法の標識効率が予想外に低く手法の改善を要した。このため当初予定していた計画の変更を余儀なくされ、結果、計画自体は遅れている。しかし、この手法の改善により、経シナプス性感染伝播能、及びRVベクターによる標識強度を向上させることに成功した。これにより、今後はより効率的に実験が進めることが可能となった。 当初予定していた海馬歯状回新生ニューロンに関する研究が遅れた一方、CA1領域への入力回路を調べた解剖学的研究は大きく進んだ。海馬CA1領域は、時間細胞が分布する等、時間情報の記憶に関わる脳領域として近年注目を集めている。そのCA1領域への入力回路を調べた本研究成果は、海馬に時間情報を送る起源となる脳領域を知る上で重要な基盤情報になると期待される。この解剖学的研究結果は現在論文としてまとめており、近日中に投稿予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
改良した手法を用いて、平成26年度に計画していた実験を行う。これは、海馬新生ニューロンが時間情報を記憶する上で必要となる特性を有しているのか調べる実験であり、具体的な実験内容は以下の通りである。まず、時間的に近接した入力情報を模すため、異なる嗅内皮質ニューロンにチャネルロドプシン(hChRWR)を発現させ、それぞれのニューロン集団を異なるタイミングで光刺激する。次に、前述した遺伝子導入法を用いて新生ニューロンのシナプス前ニューロンを同定する。海馬新生ニューロンが、時間的に近接したイベントの記憶に関わる場合、新生ニューロンは異なるタイミングで入力する両ニューロン集団の回路に組み込まれると考えられる。このように新生ニューロンのシナプス前ニューロンを解剖学的に調べることで、新生ニューロンが時間的に近接した異なる入力情報を記憶する特性を有しているのか調べる。 また、上記実験と並行して平成27年度に計画していた行動実験を行い、時間情報の記憶における新生ニューロンの役割をより直接的に明らかにする。具体的には、ラットに時間連合課題を行わせ、新生ニューロン選択的な機能阻害が課題成績にどのように影響するか調べる。標的とする新生ニューロンの機能を阻害するためには、レトロウイルスベクター(Retro-ArchT-GFP)を用いて光駆動プロトンポンプであるアーキロドプシン(ArchT)を背側海馬歯状回の新生ニューロンに発現させる。背側の海馬歯状回に光ファイバーを埋め込み、記銘時、もしくは想起時に新生ニューロンの活動を選択的に抑制する。新生ニューロンを阻害した場合、時間的近接性に関する情報が記銘または想起されず、課題成績が有意に低下すると予想される。
|