2014 Fiscal Year Annual Research Report
自己意識における時間性
Publicly Offered Research
Project Area | The Science of Mental Time: investigation into the past, present, and future |
Project/Area Number |
26119506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
信原 幸弘 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10180770)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 現象的自己 / 物語論的自己 / 眺望的自己 / 将来自己連続性 / 意識の統一性 / 心的時間旅行 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在の共時的な自己である「現象的自己」と過去から未来へと続く通時的な自己である「物語論的自己」の具体的なあり方とその神経基盤について、つぎの研究を行った。 ①将来自己が現在自己とどの程度連続的なものとして表象されるかが将来自己表象の鮮明さなどの要因によって左右されることを明らかにした。また、心的時間旅行にはエピソード記憶だけではなく、意味記憶も必要であり、意味記憶によって心的時間旅行における将来自己の表象のされ方が左右されることを明らかにした。 ②時間と自己について、時間経験を位置付けるための存在論的前提と時間認識との関係、自己の存在論的位置付け、時間経験を表現する論理学体系、時間経験と情報更新の関係、時間経験と知覚の関係、脳科学研究の成果を基盤にした知覚の多層性と能動性などを中心に哲学的観点から研究を行った。 ③現象的自己・眺望的自己・物語論的自己と「出来事」カテゴリーの関連を追究することにより、第一に、眺望的自己の持つ「アスペクト認識」とは原初的出来事カテゴリーの出現を意味すること、第二に、これらのうち物語論的自己だけが距離的時間枠組みでなく、位置的時間枠組みを持つが、それは完全な出来事カテゴリーの出現によって初めて、指標性や行為とのつながりから解放された時間枠組みが可能になるということを意味すること、この二点を明らかにした。 ④知覚的な時間経験の基礎となる意識の統一性に関して、とくに意識経験の統一性とその観察者たる主体という観念について基礎的な反省を行うために、統一性とその神経基盤について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現象的自己と物語論的自己の具体的なあり方とその神経基盤の解明を目標として掲げたが、現象的自己については、現在自己と将来自己の連続性がどのような要因によって左右されるか、時間経験と知覚がどう関係するか、知覚がどんな多層性と能動性をもつか、意識の共時的な統一性とはどのようなものか、といった点について研究を行い、まずまずの成果が得られた。 また、物語論的自己については、心的時間旅行において過去自己の表象と将来自己の表象がエピソード記憶と意味記憶のそれぞれからどんな影響を受けるか、自己は存在論的にどう位置づけられるか、時間経験を表現する論理体系はどのようなものになるか、物語論的自己がどのようにして眺望的自己を媒介にして成立するか、意識の通時的な統一性とはどのようなものか、といった点について研究を行い、まずまずの成果が得られた。 現象的自己と物語論的自己の神経基盤については、まだ十分な研究成果が得られず、神経基盤の観点から現象的自己と物語論的自己のあり方を見直すことが十分にはできなかったが、全体として当初予定した研究をおおむね遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現象的自己と物語論的自己の脳内表象についてさらに研究を進めるとともに、自己制御の時間的本質を明らかにするという課題に取り組む。 自己制御には共時的側面と通時的側面がある。共時的な自己制御は、いま現在、何をするのが最善かを適切に判断し、その判断に従って最善と思われることを実際に行うように自己を律することである。そのためには、いま現在の自己である現象的自己の統一が必要である。この統合が成立しないと、自己は葛藤に陥ったままとなり、深刻な場合には、分裂の様相を呈する。このような基本的な考えのもとに、共時的な自己制御を実現する現象的自己の統一がどのようなものであるかを明らかにする。 また、自己制御には、共時的な側面だけではなく、通時的な側面も不可欠である。いま現在、最善だと判断することと、長期的な展望のもとで最善だと判断することは必ずしも一致しないが、自己制御にはこのふたつの判断を一致させるような通時的な自己制御が必要である。そのためには、過去から未来へと心的時間旅行を行いつつ、自己の経験を一つの一貫した物語として捉える物語論的自己が構築されなければならない。現在の現象的自己がこの物語論的自己のうちに整合的に位置づけられると、共時的な自己制御は通時的な自己制御ともなり、自己制御が成立する。このような基本的な考えのもとに、過去から未来にわたる諸経験の通時的な統合がどのようなものかを明らかにし、それを通じて、通時的な自己制御を可能にする物語論的自己のあり方を明らかにする。
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Research Products
(14 results)
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[Book] Y. I. Nakano, et al. (eds.) New Frontiers in Artificial Intelligence (JSAI-isAI 2013 Workshops, Kanagawa, Japan, Selected Papers from LENLS10, JURISIN2013, MiMI2013, AAA2013, DDS13)(Nakayama, Yasuo担当“Speech Acts, Normative Systems, and Local Information Update”, pp.98-114)2014
Author(s)
Nakayama, Yasuo
Total Pages
369
Publisher
Springer
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