2014 Fiscal Year Annual Research Report
スパースモデリングによるナノデバイスシミュレーション解析
Publicly Offered Research
Project Area | Initiative for High-Dimensional Data-Driven Science through Deepening of Sparse Modeling |
Project/Area Number |
26120511
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安藤 康伸 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00715039)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 分子架橋系 / 非平衡グリーン関数 / 統計解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
単分子架橋系を用いた分子デバイスは技術的限界が見え始めたシリコンデバイスを超えるデバイス候補として盛んに研究が行われている。これまでの理論計算による研究は、特定の架橋構造に限定して計算を行い個別の解釈を与えるケースが多く、架橋構造が電気伝導特性に及ぼす影響を包括的に理解することは困難だった。そこで本研究では、架橋構造と電気伝導特性の関係を明らかにするため、様々な架橋構造に対して得られた電気伝導特性の計算結果を、統計的手法を用いて解析した。 本研究では計算対象として金電極間に 1,4-ベンゼンチオール(BDT)分子を架橋した分子架橋系を採用した。モンテカルロ法を用いてランダムなBDT分子架橋構造を作り出し、それぞれの構造に対して透過係数や構造パラメータ等を計算することでデータセットを作成した。これを用い、フェルミレベルでの透過係数の値を目的変数として、構造パラメータなどを用いて重回帰分析等の多変量解析を行った。また透過係数のスペクトル形状と分子軌道の関係を明らかにするため、透過係数スペクトルを、フェルミレベル近傍の形状の類似性に基づいて分類し、構造とスペクトル形状の包括的な理解を試みた。 多変量解析の結果、説明変数間の相関関係が明らかとなり、得られた結果が物理的直感と整合性が取れていることを確認できた。また複雑な線形重回帰モデル式を使用すれば、よい精度で透過係数を予測することができた。また様々また様々な架橋構造に対して計算した透過係数スペクトルの分類を行い、各クラスタ内での説明変数の平均値を元に、クラスタがもつ特徴を抽出した。最もよい変数はBDT分子のLUMO軌道準位の値であったが、構造に関しても、幾つかの説明変数を組み合わせることによって各クラスタがもつ構造の特徴を理解することができ、結果、構造とスペクトルの間の関係性を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26年度計画では、各種ナノデバイスシミュレーションで得られた電気伝導特性を、等価回路によってモデリングすることを目標とした。そのためにも、量子力学的な効果を含んだスペクトルを、どのように統計処理してモデル化するか、が大きな問題であった。しかし解析を進めるうちに、量子力学計算の結果は、高度に非線形であり、線形回路素子を用いたモデリングは容易ではなく、まず、どの計算結果がどの程度モデリング可能なのか、といった基礎的な視点に立ち返り、研究を進めるに至った。 H26年度成果では、情報学で広く用いられるいくつかの情報処理手法を使って、ナノデバイスシミュレーション結果に対してどの程度有効か評価することができた。具体的には、重回帰分析などの結果、重要な変数の選別がある程度可能であること、スペクトルの分類結果は、物理的な解釈ともよく一致する点である。 本結果は、スパースモデリングによって複雑なナノデバイスシミュレーション結果が解釈可能であることを示しており、当初目的であった「スペクトルの統計処理によるモデル化」を達成したといえる。そのため、「概ね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の展開として、H26年度に展開したスパースモデリング手法を駆使して以下の課題に取り組む。 (1)アモルファス酸化物における構造と物理量の相関解析:アモルファス酸化物は様々な電子デバイスに広く用いられているが、その構造は酸素組成比によって大きく変化することが知られている。このような変化を正しく考慮することは、例えば抵抗変化型スイッチング素子の動作機構を理解する上で重要と考えられている。そこでタンタル酸化物の平均的構造を解明し、欠陥生成エネルギーなどの物理量との関連性を明らかにする。 (2)新しい指標に基づく新規触媒材料の探索:全固体型の燃料電池を実現するには酸素還元触媒の低温度動作が不可欠であり、そのため新規触媒の設計が積極的に進められている。Hwang(連携研究者)はペロブスカイト型酸素還元触媒に関して過去の実験データを収集し、電気伝導度とイオン伝導度、触媒活性の間の関係性を発見した。そこで電気伝導度とイオン伝導度の第一原理計算によって評価し、ハイスループット・コンピューティングによって新たな触媒の発見を試みる。 (3)固液界面構造・化学反応の解析:リチウムイオン電池などの蓄電デバイス開発の多くは電解液を必要としており、電極―電解液界面における現象理解が、デバイス性能の向上につながると期待されている。本研究代表者は電場印加第一原理分子動力学を用いて本系の誘電特性や電気化学反応を解析してきた。一方で第一原理計算によるシミュレーションは計算コストが高く、長時間スケールのシミュレーションを行うことが難しい。そこで上記(1)の手法を基に,界面の構造に関する状態密度を把握し、効率的サンプリング手法の検討を行う。また、Blue Moon法とスパースモデリングを組み合わせて、電極界面における電気化学反応や脱溶媒和の自由エネルギーの解析を行う。
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Research Products
(1 results)