文化人類学
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論文
やがて手離す言葉をめぐる言語社会化
狩猟採集社会バカの子どもとbangà
園田 浩司
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2019 年 84 巻 3 号 p. 243-261

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抄録

本稿では、カメルーン東部熱帯雨林地域に位置する狩猟採集社会バカの、獲物の解体場で生起する子ども達の会話(ピア・トーク)に焦点を当てる。獲物の解体場では、子ども達は自らの取り分の要求を、大人を相手に、または子ども同士でよく行っている。所有者の前で取り分を要求または主張すること(bangà)は規範逸脱的振る舞いとされるが、一方で子ども達は、たとえ大人が居合わせる場面においても、そうした行為を止めようとしない。本稿では、取り分の要求が日常的対面相互行為の中で、どのように実践されているのか検討していくことを通して、当の行為が有する子どもの相互行為方略としての側面を描出する。

分配が始まる前にあらかじめ自分の分を取ってしまう、あるいはそれと宣言するbangàの遂行に際し、話し相手の先立つ発話を、聞き手が自分の発話に援用するフォーマット・タイイングが利用される。フォーマット・タイイングは大人と居合わせる空間において、子ども同士が会話場を形成する手段として実践されているが、このように子ども達は、獲物の解体場で展開されるべき、彼ら自身にとって適切な社会秩序を構築していた。

また子ども達は、大人達の何気ない発話に聞き耳を立てながら、子どもにとっての適切な振る舞いを確認していた。このことは、取り分の要求という行為の投げかけを契機に大人から引き出された社会規範を理解することを通じて可能になっていた。取り分要求行為は、規範逸脱的であるゆえ、成長につれて子ども達が手離す相互行為方略といえる。しかしこれは決して、単なる無秩序な振る舞いではなく、子ども同士による社会化過程形成に寄与していると、本稿では論じた。

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2019 日本文化人類学会
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