Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
今年度の予定として、紀伊永道の沖合い域における海洋表層性カイアシ類の代表種であるCalanus sinicusの休眠個体群の分布深度およびその季節変動を解明することを挙げていたが、海域の海況が厳しく、また調査船(徳島県水産試験場所属「とくしま」)の航海予定の調整がうまくつかなかったために、今後調査をトライしつづけても十分な質と量のサンプルをとることは困難であると判断し、当初の計画を変更した。そこで代替研究として以下の研究を行った。休眠個体群集が紀伊水道の沖合い域に大量に分布しているならば、紀伊水道への外洋水の流入にともない流れ込んできている可能性がある。昨年度の研究により、紀伊水道への外洋底冷水の流入(ボトムイントルージョン)は年により大きく変動し、その変動は黒潮の流れに大きく影響を受けていることが明らかになっている。そこで、過去に採集された試料から得られたデータをもとに、ボトムイントルージョンが弱かった年と、ボトムイントルージョンが強かった年のそれぞれの年における、海洋表層性カイアシ類群集の季節変化の違いから、海洋表層性カイアシ類休眠個体群の紀伊水道生態系への影響を明らかにすることを目的とする研究を行った。その結果、ボトムイントルージョンが強かった年では、弱かった年に比べて、(1)水温は夏季に高くなるが他の時期には両年で違いはない、(2)透明度は明瞭ではないが一年を通してボトムイントルージョンが強かった年の方が低くなり、その差は翌年の春まで持続する、(3)表層性カイアシ類の多くは両年で季節変化に大きな差は見られないが、年間平均個体数はボトムイントルージョンが強かった年に多くなること、が明らかとなった。表層性カイアシ類の平均個体数が、ボトムイントルージョンが強かった年により多くなった原因として、(1)紀伊水道の沖合い域の深層で休眠している個体群が、外洋底冷水の進入とともに紀伊水道に流れ込んできたため、(2)外洋底冷水に含まれる栄養塩類が暖かい紀伊水道に入り込み、水道奥部の海峡部で混合し表層に運ばれたことにより植物プランクトンが増殖し、主に植物プランクトンを主要な餌とする表層性カイアシ類にとって餌環境がよくなり群集サイズを増加した、の二つが考えられた。今後は、荒天でも海洋観測ができる調査船を調達し紀伊水道沖合い域における休眠個体群の確認すると同時に、外洋底冷水の流入量を測定することにより、より海洋表層性カイアシ類休眠個体群の紀伊水道生態系への影響を明確にすることができるようになるであろう。