Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
化学反応の量子制御は、まず理論的に提唱され、実験がそれを実現すべく後を追う形となって研究が進行している。本研究は、理論と実験の隔たりを狭めるべく進めてきた。前年度までに行った、5-ヒドロキシトロポロンのsyn-anti異性化反応に対するナノ秒レーザーとピコ秒レーザーの両方を用いた量子制御実験とその元になる理論との比較から、理論におけるモデルの単純さが現実の分子の状況とかけ離れているという結論に至った。具体的な例としては、理論で扱っているモデルは反応前・遷移状態・反応後の3つの状態を考えた3準位系であるが、現実には複数、多数の準位が存在するので、一つのレーザー波長によって複数の遷移が励起され、3準位系のモデルに比べて反応効率が著しく低下することが挙げられる。そこで新たな理論的モデルを開発することを中心に研究を行った。反応のダイナミクスのシミュレーションというアプローチを新たに加えた。分子動力学シミュレーシヨン(MD)は、これまで固体や溶液などの大きな系で使われてきたが、今回はAb initio-MDと呼ばれる手法を導入し、分子レベルでのシミュレーションを行えるようにした。プロトン移動のシミュレーションに先立ち、水素結合系のシミュレーションをテストとして行った。水-尿素水素結合系のab initio-MDによる研究から、この系における様々な実験・理論の両方の研究につながる結果を出すことが出来、ab initio-MDの手法の有効性が確認された。次にプロトン移動のシミュレーションを行うべく、経路積分セントロイド量子動力学法を分子内の反応にも応用するための開発に着手した。こちらは、膨大な計算時間を必要とすることから現在のところはっきりとした結果が出せていないが、この方法を用いることにより、実験化学者が求めるようなシミュレーション結果を出すことができるようになるものと見込んでいる。
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