Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
平成14年度は、インドネシア共和国南スラウェシ州マカッサル市における女性の日常的宗教実践と社会経済生活の相互関係についての研究に従事した。これまでの臨地研究から得られたデータを元にして、分析と考察を重ね、平成15年2月には、約10日間の補足的な調査を、同国同州同市の国立ハサヌディン大学の研究者の協力を得て、おこなった。私の調査地のように複数の民族集団が狭い面積の行政村に混住し、スラウェシ島本土でみられるような社会階級差がまったく意味をなさないような社会において、「自己」と「他者」を区別する指標となるものが、巡礼の経験である。このことは、従来の南スラウェシにおける文化人類学や社会人類学、あるいは歴史学等から見落とされてきた海峡島嶼部地域の顕著な特徴であるといえる。これまでの研究の空隙を埋めることを視野に据え、私がおこなってきた調査活動における宗教に関わる部分を充足することができた。ブギス=マカッサル社会のこれまでの研究においては、女性の商業活動の軌跡と日常的宗教実践との相互関係は、ほとんど等閑視されてきた。臨地調査による参与観察と、個人史の聞きとりの手法によって、海に日常生活の基盤をおく移動のある生活世界を再構築した。このことは、今後のブギス=マカッサル研究における新局面を展開する画期的な研究の布石を打ったものである。この結果は、2003年(平成15年)6月6日から、マカッサルで開催される国際会議/The Bugis diaspora and Islamic dissemination in the 20th century Malay-Indonesian archipelagoにおいて、口頭発表される予定である。以上のように、平成14年度は、これまでの研究の蓄積を吟味したうえで、新しい研究の視点を切り開き、(1)既存の研究成果の欠落部分を埋める重要な研究となった、(2)今後のブギス=マカッサル研究の分野における新しい布石を打つ研究となった、と評価することができる。