Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究では、地理的に隔離されている問隙性線虫類Meyersia japonicaの、2km離れた2個体群間で、遺伝的交流がどの程度行われているかを、各個体群に属する複数個体の遺伝的組成の類似度に基づいて分子生態学的側面から明らかにすることが目的である。これまでの研究の成果により、2個体群では遺伝子交流があり、光学顕微鏡レベルでの表現型が異ならないことが明らかになっていたが、遺伝子交流の頻度とタイミングを高い精度で推定するために、前年度に引き続き、2個体群から採集をおこない、RAPD(Random amplified polymorphic DNA)法により個体群内および個体群間での変異を解析した。その結果、本年度には中規模の台風が南紀地方を通過したにもかかわらず、2個体群間の遺伝距離が昨年度以前に比べて有意に小さくなることはなく、昨年度以上に遺伝子交流が増大した証拠は得られなかった。砂粒間のすきまに生息する間隙性の線虫類は、浮遊幼生期を持たないこと、砂粒の深層に生息し、粘着性物質を分泌して砂粒に身体を固定することから、極めて移動能力に乏しいと考えられたが、本研究から、受動的ではなく自発的な移動分散のメカニズムを有していることが推測された。今後の研究により、分散に関する生態学的・行動学的知見を得ることができれば、線虫類の移動分散研究のモデル生物として本種を用いることができるだろう。また、昨年度までに得られた南西諸島産の資料について、資料を解析した結果、Meyersia属の線虫は得られず、本属の分布が生物地理学的にも興味深いことが明らかになった。これらの結果をまとめ、現在、国際誌への投稿論文を準備中である。
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