Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
今年度、本研究は生理的条件下におけるロドプシン・トランスデューシン(Gt)の蛋白質間相互作用機構の解明を主目的として進めた。まず、検出器に高性能CCDを用いた分光光度計を開発しロドプシン測定に適用することにより、ミリ秒の時間領域におけるロドプシンの吸光度変化を観測できるようになつた。光を吸収したロドプシンはミリ秒の時間領域で活性中間体、メタIIを生成しGtを活性化するため、この過程の研究に十分な時間分解能が得られたといえる。次に、より生理的な試料条件を実現するため、ウシ網膜の視細胞外節膜(ROS膜)をそのまま測定に用いることを試みた。しかしながら、濁りの多い試料は光を散乱してしまうため吸光度測定にとって致命的であり、ROS膜懸濁液をそのまま測定することは難しかった。そこで超音波破砕法を導入したところ、生理的条件を保ちつつ極めて濁度の低い試料を得ることができた。この試料と上記分光光度計により、世界で始めて生体内温度におけるメタII中間体とその前駆中間体との平衡を観測することに成功した。この試料に、同じくウシ網膜より精製した三量体GtとGTPの非加水分解型アナログであるGTPγSを添加して吸光度変化を測定したところ、従来、Gtを唯一結合しうると考えられてきたメタII中間体が生成する以前から、GtとロドプシンがGtの活性化を伴わない相互作用を行っていることが明らかになった。さらに、GtとGDPを添加した試料の測定により、この先駆相互作用はGDP結合型のGtによって実現されていることがわかった。以上の知見は、三量体G蛋白質とレセプター蛋白質の一般的な機能発現メカニズムの解明にとっても非常に意義深いものである。これらの知見をより深めるため、現在Gtのγサブユニット及びロドプシンキナーゼのC末端領域の脂質修飾ペプチドを合成している。