Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本年度は、独立の画家と見なされてきた芸術家オディロン・ルドン像見直しの試みを論文と展覧会図録に発表した。まず、これまで重視されてこなかった画家と国家との関わりを明らかにするため、晩年に国立ゴブラン製作所から注文を受けた事実に着目し、その経緯を過去2年間にパリの国立古文書館で独自に調査した新資料と同時代の批評から分析した。その結果に基づく新解釈を論文「政府注文と画家-オディロン・ルドンによるゴブラン織り下絵制作について-」にまとめ、学会誌『美術史』に投稿した。論文で指摘した内容を以下に簡略に説明する。ルドンがゴブラン織り下絵の国家注文を受けた第一の理由として、伝統を尊重するあまりに時代遅れな芸術となっていたゴブラン織りを政府は再生させようと急いでいたことが挙げられる。公的組織からルドンが受けた評価は好意的なものではなかったが、当時の美術行政の変化に左右されて注文が実現した。また、この注文はルドンに名誉をもたらしたが、画家は注文作品に個性の表出を避け、前衛的な行動も控えた。さらに、この下絵制作は、当時のマチエールの意識化の流れのなかで、ルドンの絵筆に豊かな質感表現をもたらす契機となり得た。本年8月から12月にかけて島根と岐阜を巡回した「ルドン展-絶対の探求-」では、展覧会実行スタッフとして展覧会図録の制作に携わり、とくに「作品解説」の執筆と「画家年譜」および「参考文献リスト」の作成を担当した。このほかに、前年度より続けてきた原典資料紹介として、アンドレ・フェリビアンの講演録の後半の翻訳、注釈を完成させ、発表した。
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