Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究では、いまだに謎が多いブラックホール天体の重要な観測的性質であるスペクトルの時間変動を、ブラックホールとその周りの降着流という理論的モデルを用いて完全に説明することを目的とする。観測スペクトルを説明するにあたって、定常モデルと時間発展モデルの両方のアプローチを用いる。定常モデルの研究では、超臨界降着流の輻射スペクトルを、フルに相対論的流体力学の基礎方程式と、速度の二乗以上を無視した相対論的輻射輸送方程式を組み合わせることによって求めることに成功した。考慮に入れたパラメーターは、ブラックホール候補天体のスペクトルの変動の状態では、光度が極大になるフェイズを含んでおり、観測との比較が合うことを期待したが、得られたスペクトルは観測で得られているスペクトルよりもさらに高エネルギー側にコンプトン散乱の影響を受けてシフトしており、従来のモデルに何らかの変更を強いる結果となった。この結果は共著論文として雑誌掲載が決定した。この結果を受け、従来のモデルに基づいて計画した今回の研究計画も変更を迫られることになり、期間内のモデル完成は難しい状況となったが、今回の研究の中で、まだいくつか重要な発見があった。まず、同じく定常モデルの研究だが、回転するブラックホールの周りに形成する希薄なガス降着流が放射するガンマ線の研究がすすみ、現在共著論文を投稿し審査の過程にある。このガス降着流のモデルは、ブラックホール候補天体のスペクトルの状態のうち光度が最も低いフェイズに相当し、観測されるガンマ線の理論的予測は将来のガンマ線観測衛星の打ち上げに先立ち、非常に重要な結果である。この研究の過程で、我々の銀河中心の巨大ブラックホールの位置で見つかったガンマ線源は、最近のチャンドラX線衛星のX線データを考慮して再計算すると、降着流モデルでは銀河中心起源のガンマ線ではないことが初めてはっきりした。時間発展モデルでは、今回の研究の過程で開発し、春の学会でも発表した、一般相対論的な磁気流体シミュレーションコードの最も基本的な部分(基礎方程式やアルゴリズム、簡単なテスト計算など)をまとめ、単著論文として投稿した。このシミュレーションコードは一般相対性理論を完全に含んでいながら、方程式、アルゴリズム共に非常に簡単で、実用レベルまで開発が進めば、ブラックホール降着流の理論的な研究の分野に大きな影響をもたらすと思われる。この研究期間終了後もできるかぎり開発を進めることに貢献し、発表を重ねていく予定である。また、このコードの一部はJavaにも移植し、Webアプリケーションのサンプルを含むソースコードを研究室に残した。シミュレーションコードの教育、あるいは情報処理教育の一環として、役立ててもらえることを期待している。
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