Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
平成13年度より継続して、本研究の目的物質、単分子磁石と導電性分子との電荷移動錯体の原料である、Mn12核クラスター〔Mn_<12>O_<12>(O_2CC_6H_5)_<16>(H_2O)_4〕・2C_6H_5CO_2Hのミュオンスピン緩和法(μSR)による磁気緩和の解明を行った。μSR測定は、ミュオンが、その崩壊する10^<-6>sまでの時間内に感知したサンプルの磁気モーメント由来の内部磁場情報のデータを数十分から数時間収集した統計平均を取り扱う。そのため測定のタイムスケールは10^<-6>s程度に制限される。今回はまず、磁場冷却(FC)後のスペクトルの温度変化を測定したところ、3K以上ではZFC後のものと一致し、それ以下で一致しないのを観測した。これはMn12の磁化反転の凍結に由来すると考えられる。次に、短い時間間隔でデータ統計を取り分けながら時間変化を追っていく測定モードを考案し、3K直下で測定を行った。するとFCスペクトルがZFC型に時間変化していく様子が観測された。これより求められたMn12の磁気緩和の時間スケールは数時間のオーダーであり、これまで測定できる時間スケールはミュオンの崩壊時間程度であるという通念を破るものとなった。現在このモードはスピングラス等、長距離秩序を持たない長い緩和系の測定に用いられるようになってきている。また、共同研究により〔Mn_<12>O_<12>(O_2CCH_3)_<16>(H_2O)_4〕・2CH_3CO_2H・4H_2Oの磁性の圧力依存性を測定した。1個の単結晶を分子の容易軸と磁場が平行になるようにテフロン製圧力セル内で固定し、Be-Cu製クランプで目的の圧力に加圧したものをカンタムデザイン社SQUID磁束計MPMSで2.0Kにおける磁化曲線を測定した。磁化曲線上には一定磁場間隔で量子トンネルに由来すると思われる多数のステップが観測されたが、ゼロ磁場のステップのみが磁場挿引速度依存性などから量子トンネルでないことがわかった。そこで磁化曲線を以下のように解釈した。Mn12系結晶は内部に遅い緩和時間(SR、磁化凍結温度2.7K)、速い緩和時間(FR、磁化凍結温度1.3K)をもつ2種類の分子がランダムに共存している。そしてその違いは1サイトのMn3+のヤーンテラー歪みの様式の違いから生じるために、これら2種類の分子をJahn-Teller異性体と呼ぶ。以上のことは昨年度までの我々の研究により明らかになったものである。測定温度2.0Kは、SR、FR分子の磁化凍結温度の中間温度であるために、SR分子の磁化は凍結してヒステリシスを示すのに対して、FR分子の磁化は揺らいでいるためにヒステリシスを持たない。そのためトータルとしての磁化曲線はゼロ磁場にFR分子由来のステップを生じる。圧力依存測定で見られたゼロ磁場のステップもこれによると考えられる。このゼロ磁場のステップは加圧に伴い大きくなっていくが、これはSR分子がFR分子に異性化することにより結晶中のFR分子の割合が増加したと考えられる。磁化曲線の解析により、FR分子の割合は大気圧中で5%であったものが0.5GPaの圧力下では30%にまで増加することがわかった。さらに脱圧過程の測定で可逆性も確認した。以上のことからMn12結晶では、圧力による可逆的なヤーンテラー異性化が起こることが示せた。
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