Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本年度は、前年度につづき、1920年代、北京の「公寓」に関する資料を収集し、その成果にもとづいて、沈従文「〓人謡曲前文」の訳注という形で公表した。「〓人謡曲前文」は、1926年に執筆されたものであり、中国の近代詩に民俗的要素を取り入れることを主張したものである。沈従文個人のみならず、中国近代詩史全体を考えるうえでも、大きな意味を持つ文章と言えるであろう。しかしながら、その文章が難解であるため、これまであまり言及されることがなかった。今回は、「〓人謡曲前文」を、「公寓」や文壇などの視点を導入して、詳しい訳注を試み、ひとつの読みの可能性を呈示したものである。このほか、やはり「公寓」を舞台とし、1920年代の文学青年を主人公にした胡也頻「昨夜(ある供述)」を翻訳した。この作品は、文学青年男女の感情を描いたものであるが、性的な内容を描くこともあって、これまであまり知られることがなかった。今回は、これを翻訳し、広く紹介するとともに、「公寓」における文学活動を理解するための一助とした。さらに本年度は、沈従文「張家のぼん」、「新と旧」を翻訳した。ともに、1930年代の作品であり、「公寓」のテーマとはややずれるものの、いずれも本邦初訳となっている。本年度の学会発表は、中国湖南省において開催された沈従文百年誕辰国際学術論壇で、これまでの研究の成果を生かして、60年あまりにわたる、わが国の沈従文研究の歴史的潮流を概活し、広く国内外の研究者に紹介した。わが国の沈従文研究は、他の諸外国と比べて、長い歴史的蓄積を有するにもかかわらず、これまで十全には紹介されてこなかった。
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