Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
ヘパラン硫酸(HS)は、細胞増殖因子、細胞接着因子など、多様な分子と相互作用し、様々な生物学的活性を示す。HSのこの多彩な機能は、「異なる硫酸化パターンを持つHSが、それぞれ異なるタンパク質と結合する」ことにより特異的に調節されると考えられている。しかし、このような特異的硫酸化が、生体内において細胞外からのシグナルの特異性を決定しているのかどうか未だに不明である。HSの異なる部位の硫酸化は、それぞれ異なるHS硫酸転移酵素により触媒される反応である。そこで私は、in vivoにおけるHSの特異的硫酸化の意義を明らかにするために、遺伝学的手法が有効なショウジョウバエを用い、3-O硫酸転移酵素の機能解析をおこなった。ショウジョウバエ3-O硫酸転移酵素(dHS3ST)の機能を調べるために、トランスジェニックRNAi法を用いて解析をおこなった。dHS3STトランスジェニックRNAi個体(以下、dHS3ST RNAi個体と呼ぶ)は、様々な末梢感覚器の数の増加、翅脈の過形成、翅縁の欠失、などの表現型を示した。これらの表現型は全てNotch変異体が示すものと酷似するため、dHS3ST遺伝子とNotchシグナルとの関係に焦点を当て引き続き実験を行った。dHS3ST RNAi個体の表現型は、様々なNotchシグナル系遺伝子の変異を合わせ持つことにより悪化した。またdHS3ST RNAiは、翅原基におけるNotch標的遺伝子群の発現を抑制した。これらの結果は、dHS3STがNotchシグナル伝達に機能することを示している。さらに、遺伝学的上位性の解析から、dHS3STはNotchリガンドをコードするDeltaより下流、細胞内Notchシグナル系因子より上流で機能をしていることが明らかになった。またdHS3ST RNAiは細胞膜表面に存在するNotchタンパク質レベルを著しく減少させる。以上の結果から、3-O硫酸化HSが、(1)Notch遺伝子の発現、(2)Notchタンパク質の細胞膜表面への提示、もしくは(3)Notchタンパク質の安定化、のいずれかに必要であることが示唆された。