Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
一時的な臥位姿勢がヒトの体温調節に与える影響を明らかにする目的で、ティルトテーブル上において体を水平に横たえた仰臥位(Supine)と、頭部を6°上方(Head-up)あるいは下方(Head-down)に傾斜させた3条件について、中立環境下における座位から臥位へ姿勢変化に伴う深部体温の低下、および両手掌部を温水に浸漬させることにより局所加温した場合の体温調節反応に対する閾値深部体温を比較し、臥位時の僅かな姿勢の違いが体温調節のセットポイントを変動させ得るかどうか検討した。健康な青年男子12名を被験者とし、中立環境下において1時間以上の座位安静の後、ティルトテーブル上において3条件いずれかの臥位姿勢をとらせた。30分間の臥位安静の後、左右両手掌部を42℃の温水に手首まで浸漬させ、発汗および皮膚血管拡張が確認されるまで30〜40分間局所加温を行った。鼓膜温および直腸温は座位から臥位への姿勢変化直後より低下したが、Head-upにおいては低下が僅かであったのに対して、SupineおよびHead-downでは大きく低下し、姿勢変化に伴う深部体温の低下はこの順に大きくなった。30分間の臥位安静後、鼓膜温はHead-upに対してSpine (p<0.05)およびHead-down (p<0.01)で有意に低くなった。直腸温についてもHead-upに対してHead-downで有意に低くなった(p<0.05)。座位および臥位安静時における酸素消費量に有意な差は認められなかったものの、臥位安静時には酸素消費量が減少する傾向が見られた。しかし、酸素消費量に臥位姿勢条件の違いによる差はなかった前腕部血管抵抗はSpineおよびHead-downで座位安静時より有意に低下し(p<0.05)、皮膚血流量は著しく増加したが、Head-upにおいては前腕部血管抵抗および皮膚血流量に殆ど変化が見られなかった。下腿部血管抵抗についてもHead-downおよびSupineで座位安静時より有意に低下し(p<0.01)、皮膚血流量も著しく増加したが、Head-upでは姿勢変化に伴う皮膚血流量の増加は僅かであった。座位から臥位への姿勢変化に伴う中心血液量の増加により心肺圧受容器反射が誘発され交感神軽が抑制された結果、血管抵抗が低下し、皮膚血流量が増加したが、Head-upにおいては心肺圧受容器反射の脱抑制が小さかったと推察される。Head-upにおいて深部体温が高く維持された要因として、姿勢変化に伴う皮膚血流量の増加が抑制され末梢部からの熱放散量が少なかったことが考えられる。手掌部局所加温による発汗発現時の鼓膜温は、Head-downにおいてHead-up (p<0.01)およびSupine (p<0.05)に対して有意に低くなった。また有意な差は認められなかったものの、発汗の閏値鼓膜温はHead-upでSupineよりも高い傾向を示した(p<0.06)。対暑反応として発現した皮膚血管拡張に対する閾値鼓膜温についても、Head-upに対してHead-downで有意に低くなった(p<0.05)。なお、発汗および皮膚血管拡張発現時の平均皮膚温については各臥位姿勢条件間に有意な差は見られなかった。臥位安静時に鼓膜温および直腸温がHead-upに対してHead-downで有意に低くなったこと、また発汗および皮膚血管拡張の閾値鼓膜温がHead-upに対してHead-downで有意に低くなったことから、Head-upに対してHead-downで体温調節のセットポイントがより低温側に移行することが本研究により明らかとなった。この背景として、姿勢変化に伴う体液移動により誘発される心肺圧受容器反射の僅かな違いがヒトの体温調節を修飾する可能性が考えられる。