Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本年度は、前年度に引き続いて、ジェンダー化された能力主義社会の変容プロセスを解明するための理論的考察を行った。まず、メリトクラシーの変容についての広く共有された図式の批判的検討である(日本教育社会学会大会での発表)。ここで検討されるのは、若者文化・生徒文化が「地位達成志向」から「自己実現志向」へ移行しているという図式、言い換えれば、「自己実現志向の高まりにともなう地位達成志向の低下」という、若者・生徒の意識や文化的側面に注目する図式である。しかし、この図式は、70年代後半から90年代前半までの状況に適切な認識図式にぎず、近年(90年代後半以降)の若者文化・生徒文化を捉える上では不適切かつ有害な図式であることが明らかになった。次に「ジェンダーと教育」研究の批判的検討である(日本社会心理学会大会での発表)。先行研究は、性別役割分業規範によって、女性の地位達成感志向が抑圧されるという認識図式を採用してきた。しかし、この図式もまた70年代後半から90年代までの状況に適合格であるため、性別分業規範の正統性が問われ、その規範性が揺らぎつつある中では、不適切であることが明らかになった。以上の二つの図式が不適切かつ有害であるのは、これらの図式が、若者文化・生徒文化が生成される今日的状況から視線を逸らせ、それによって、「無気力」「ひきこもり」として激しく排除される人々を視野の外に置くからである。なお、本研究を遂行する中で、以下の課題が提起された。すなわち、個人が自らの生き方をプロデュースすること、自らのライフプランニングする<自己実現の主体>であることが強制される中で、なぜ、「無気力」が産出されるのかという課題である。