Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
<フランソワの壺>(フィレンツェ国立考古博物館所蔵)の制作者、陶工エルゴディスモと陶画家クレイティアスの作品を中心としてアテナイの僣主政時代のアッティカ黒像式陶器の社会的機能を考えることを目的とした本研究では、昨年度に引き続き、国内外の作品調査で得られたデータに基いて器形、様式を中心とした分析を行った。その結果、判明した主なことを以下に概記する。1.陶画家クレイディアス、およびその周辺に帰される作品群約40点(在銘作品5点を含む)は、そこに残された銘記からその多くが、陶工エルゴティモスによって制作されたものであることが確認される。これらの作品の器形を分析した結果、その大半は、アッティカ陶器における先行例、および同時代の類例の少ない稀な器形であることが判り、渦巻形クラテルがラコニア製の青銅器を範としたものであること、ゴルディオン・カップがラコニアおよび東ギリシア製のキュリクスの影響下に制作されたものであること、ゴルディオン・カップが、紀元前6世紀中頃のアッティカのキュリクスの代表的なタイプであるリップ・カップの祖型となったことが明確化された。2.陶画家クレイティアスが描いた各種の形像、刻線、賦彩法を分析した結果、クレイティアスの様式には、従来、指摘されていたソフィロスからの影響は殆ど見出されず、むしろ、ソフィロスと同時代に活動した「KXの画家」の影響下に、その細密画様式を確立したことが考えられた。そして、クレイティアスの様式は、陶工エルゴティモスの子、エウケイロスをはじめとするリトル・マスター・カップの画家たちと、リュドスに継承されていたことが判明し、これらの関連陶画家との比較から、クレイティアスの活動期間は、従来の見解よりも長期におよぶ、およその紀元前570年から紀元前555年頃に相当するものであるころが推測され、その代表作である<フランソワの壺>は、クレイティアスの活動期間のなかでは中期に位置づけられる作品であることが明らかとなった。