Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
この研究の目的は、日本の高度成長期以来の租税政策をめぐる政治分析を通じ、日本における所得税減税をはじめとする租税政策の変化とその要因を明らかにし、日本の再分配政策の特徴を捉えることにある。1970年代半ばから1980年代半ばにかけての時期には、それまで続けられてきた所得税減税が抑制されるとともに毎年度増税が行われ、減税額を増税額が上回ることが多かった。この増税の推進主体は大蔵省だったといえるが、政治的イニシアティブのもとで増税は行われないという一般的理解に反して、支出拡大を優先する自民党政権は増税を容認していたことを示すことができた。次に、1980年代後半以降には租税政策が転換し、所得税・法人税とも一貫して減税されるようになったことについて、それをもたらした要因について分析した。その結果、無党派層の増大のもとでの所得税減税要求、グローバリゼーションなどの経済環境変化の中での大企業による法人税減税要求に対し、自民党政権が減税をせまられたという解釈を提示することができた。この議論は、現在の財政赤字の原因を歳出面の政策や経済的要因だけに求めるのではなく、歳入面の政治的要因に着目する必要性を指摘することにもなる。さらにこの議論を応用すると、政府と有権者、政府と企業の関係の希薄化というのは、OECD諸国における所得税・法人税減税の潮流を説明する重要な要因ではないかと考えられる。これらの日本における租税政策の政治分析から、福祉だけでなく財政もまた、かつては企業の負担に大きく依存していたこと、そして現在は減税を迫られ新たな負担を求めることもきわめて困難な状況に陥り、政府による再分配政策が機能しなくなっているという日本の特徴を捉えるとができた。