Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究の対象である天王星リング系の特徴のひとつは、いくつかのリングは楕円形状をしていることである。これは、リング粒子の近点方向がそろっていることを意味する。しかしながら、天王星自身が質点ポテンシャルからずれているために生ずる近点の差動回転やリング粒子同士の直接衝突の効果によって、初めに近点がそろっていたとしても、それは数百年程度と非常に短い時問で壊されると考えられる。そのため、リング粒子の近点をそろえる、また、それを維持するなんらかの機構が存在していると考えられている。リング粒子のみを考慮したN体計算を行なった昨年度までの研究成果を踏まえ、本年度は、リング粒子の拡散を抑えるために必要な衛星をリング周囲に配置したリング-衛星モデルを考え、N体数値計算を行ないその系の進化を調べた。その結果、初期に円であったリングから楕円リングが形成されることを直接的に再現することに成功した。この楕円リングは、形成後、維持され続けること、また、リング粒子同士の近点運動はそろっていて、その時間変化の割合は中心星自身の質点ポテンシャルからずれによって生じる歳差で説明できることを示した。これまでに提唱された楕円リング維持機構理論モデルとの比較を行ない、数値計算で得られた楕円リングは、それら理論モデルで期待されるリングとは異なることが分かった。例えば、リング自己重力モデル(Goldreich&Tremaine1979)が楕円リング維持機構として広く受け入れられているが、我々のリング粒子自己重力を無視したN体計算は、リング自己重力がない場合でも楕円リング形成を示した。これらの研究結果は、天文学会、惑星科学会、等の国内の講演会やLPSCの国際学会等において報告しており、また、学術雑誌に投稿中である。数値計算で得られた楕円リングの形成機構を明らかにするために、衛星軌道を固定しリング粒子自己重力を無視した理想化された衛星-リング系のN体計算の結果と永年摂動論から得られる予測との比較を行なった。その結果、それらは良い一致を示すことが分かった。これらの研究結果は、従来あまり考慮されなかった衛星の永年摂動とリング粒子同士の非弾性衝突によるエネルギー散逸の効果が天王星楕円リング形成に重要な役割を果たしている可能性があることを示している。