Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本年度は、ATP合成酵素のεサブユニットにATPが結合するという、全く新しい知見を得た。ATP合成酵素の部分複合体であり、α_3β_3γεというサブユニット組成を持つF_1-ATPaseには、3つずつあるαとβに1つずつ、合計6カ所のATP結合部位が存在することが知られている。このうちのβサブユニットにあるATP結合部位が、ATP合成、加水分解の触媒部位である。これまでに、F_1-ATPaseのその他のサブユニットにATPが結合するという報告はない。本年度私は、好熱菌由来のF_1-ATPase(TF_1)のεサブユニットにATPが結合することを見出した。εサブユニット単独で大量発現させ調製した標品を用いて実験を行った。εサブユニットとATPの結合は強く、両者の複合体をゲル濾過HPLCで単離することができた。加えるATPの量を変化させ、結合の量比を見積もったところ、1:1の結合であった。ATPの代わりにADPを用いると結合は見られなかった。また結合の特異性は高く、GTPなどATP以外のヌクレオチド三リン酸は結合しなかった。ATP合成酵素複合体やその部分複合体であるF_1-ATPaseに含まれるεサブユニットへのATPの結合はαサブユニットやβサブユニットへの結合と区別することが困難で、現在までには確認できていない。もしεサブユニットへのATPの結合が、ATP合成酵素複合体中でも起こるものであれば、εサブユニットによる活性制御と直接関与する重要なものと考えられる。