Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
これまで2年間の研究成果により、ユーラシア大陸中央部における乳加工体系とその空間分布についての枠組みを把握することができた。西南アジアのこれまでの研究成果と合わせて、ユーラシア大陸における一次的に牧畜が発達した(牧畜の成立が相対的に早い)地域における乳加工体系の類型分類とその特徴把握とができた。そこで本年度は、これらの成果を発展させ、新たなる分析理論の構築を進めるべく、この一次的牧畜地帯が二次的牧畜地帯(牧畜の成立が相対的に遅い地域)にいかに影響を与えてきたかを乳加工体系の視点から検討した。二次的牧畜地帯の事例として中国四川省(青蔵高原東部)を選出し、チベット牧畜民の乳加工を2002年8月に約2週間調査し、一次的牧畜地帯の乳加工体系との共通点と相違点とを比較検討した。比較分析した結果、青蔵高原東部のチベット人の乳加工体系には、西南アジアと中央アジアの乳加工技術が重層的に影響していることが明らかとなった。その一方で、北アジアの乳加工技術はほとんど影響を与えていない。従って、青蔵高原東部のチベット人の牧畜の成立・発達には、西南アジアのペルシャ・アラブ人、中央アジアのチュルク語派の人々が、幾度にもわたって重層的に影響を深く与えてきたであろうことが示唆された。そして、乳加工体系にモンゴル人の影響を強く受けていないことから、12世紀にモンゴル人が北方から南下して、青蔵高原を統治し、チベット人の生業や文化などに深い影響を与えた元時代の頃に住少なくとも、チベット人の牧畜は既に成熟して一つの独自な形態を形成し、ヤクを伴って青蔵高原に広く展開していただろうことも示唆された。本年度において試みた乳文化からの牧畜の成立過程への論考は、新たなる牧畜論考としての枠組みと成り得るものと考えられ、今後も更に理論構築を進める予定にしている。
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