近代普遍主義批判とハーマンの書簡による「へりくだり」の異文化コミュニケーション
Project/Area Number |
01J02445
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
独語・独文学
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
宮谷 尚実 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2001 – 2003
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2003)
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Budget Amount *help |
¥2,400,000 (Direct Cost: ¥2,400,000)
Fiscal Year 2003: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2002: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2001: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
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Keywords | 異文化コミュニケーション / 近代普遍主義批判 / J.G.ハーマン / 18世紀 / ドイツ / 文字論 / 言語論 |
Research Abstract |
カントの『純粋理性批判』を批判して書かれた、ハーマンの『メタ批判』は、音声と字母とを相互に作用しあうひとつの統一体として捉えており、いずれかに優位を与えるようなことはしない。以下では、ハーマンが「へりくだり」の思想に基づき、文字をどのように理解し、彼の著作活動において文字との戯れを近代普遍主義批判のツールとしてどのように実践していたか、その例を示す。 ここで取り扱うハーマンの<著作>『たったひとつの字母Pに関する索引の試み』(以下、『索引の試み』)は、従来のハーマン研究では扱われてこなかった作品である。ハーマンの最も有名な著作である『美学提要』を含むいくつかの文章をまとめた『愛言者の十字軍行』の巻末に、この著作がまるで普通の索引であるかのように収められていたことが主な理由として考えられる。『十字軍行』の巻頭目次でも『索引』は挙げられず、初版を見ても『索引』の部分だけにはページ数がふられていないため、独立した著作と認識されることなく、研究書や注釈書でも言及されることがほとんどなかった。 ところが、この『索引の試み』は通常の索引とは明らかに一線を画す。標題にもあるように、この索引は字母Pから始まる事項のみに限定されており、索引に普通見られるようなAに始まりZで終わるアルファベット順ではない。ここでの字母Pは、発音を示す補助記号というより、むしろそれぞれの項目名を束ねる図像として機能している。『索引の試み』を束ねる字母Pは、近代普遍主義的言語観によく見られるような単語を単純に綴ったり音声を発音したりする記号としての役割ではなく、その先にある何か別の概念や事柄を指し示す図像の役割を担っている、あるいは表語的機能を持っていると言えよう。 この近代普遍主義的文字論批判は、すでにこの作品の表紙で明確に表現されていた。『索引の試み』本文内に留まらず、表紙のパーンと共にこの「索引」を有する著作『愛言者の十字軍行』全体を貫く「愛言者」(Philolog/Philologen)のシンボルとして字母Pは図像的に機能していると考えられる。このような文字理解から読むと、ハーマンが彼の著作『たったひとつの字母Pに関する索引の試み』の実践を通して、プラトンやパウロの発言を敷衍させた合理主義的言語論者たちとは異なり、文字を「殺す」ものとネガティヴに理解しているのではなく、むしろ霊と肉であればより低い肉に属する文字を「へりくだり」の原理に基づき、著作全体を貫くシンボルとして積極的に用いていることがより一層明らかになった。これは日本の文字文化とも通じるため、文字論から見た異文化コミュニケーションに示唆を与えるものと考えられる。
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Report
(2 results)
Research Products
(3 results)