Budget Amount *help |
¥3,500,000 (Direct Cost: ¥3,500,000)
Fiscal Year 2003: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2002: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
Fiscal Year 2001: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
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Research Abstract |
本年度は,次の2つの方向に研究を行った。 第1に,技術革新を含む企業理論の基礎付けに関する研究を行った。近年,経済学における「企業の理論」は,取引費用理論のインプリケーションを包含しつつも,さらに契約・誘因構造をめぐる分析へと進展している。それに対して,企業の(技術)能力蓄積・学習に焦点を当てた「能力ベース」企業理論(competence-based theory of the firm)が提起されてきている。この企業理論は,企業・産業の長期的発展,とりわけ技術革新を含むそれを分析するにあたって適切な枠組みを提供するものと評価することは出来るものの,理論的にその正当性を基礎づけるには至っていないため,アドホックな枠組みであるとの評価を免れ得ない。そこで筆者は,進化論的推論を援用することによって新古典派的企業理論を正当化できるのか否かをめぐって争われた,アルチアン,フリードマン,ウインターらによる著名な論争を検討した。それによって,Nelson and Winter流の進化論的推論を援用する限り,企業の「能力」(行動ルール並びに技術・組織能力)と「行動」(パフォーマンス)が一対一対応するという新古典派並びに上述新制度派の企業理論の想定は正しくなく,したがって両次元を区別した「能力ベース」企業理論が正当性を持ちうるということを示した。したがって,技術革新を含む企業理論にとって,各企業の「能力」形成・淘汰を導く仕組みを解明することが重要であるとともに,そのように保有されている「能力」が,生産性向上,新製品の効果的導入といった「パフォーマンス」にいかに結びついているかという因果連関を解明することも課題となる。それゆえに,誘因構造に関する問題を無視することはできない。むしろ,「能力ベース」企業理論を進化経済学的なモデルに「移植」した上で,誘因に関する問題を定式化し直すべきであると主張した。 この考察内容は,依然としてドラフトに留まっているが,次年度には公表したいと考えている。 第2に,技術環境の複雑化が,技術開発組織に対してどのような影響を及ぼしているかという問題について,研究を続行した。半導体産業を継続して調査し,その結果をEAEPE学会で報告した。同報告では,1980年代に,技術革新プロセスを的確に描写したとされる「鎖状モデル」(Chain-linked model of innovation)がどのように変容しているのかという問題を扱った。情報技術の導入をめぐる議論においては,しばしば,技術的知識のコード化のせいで,上述の,どちらかというと現場主義的なモデルが現実に合わなくなってきていると論じられる。しかし,現実には,設計から製造に至る過程では調整が単純化される一方,開発・設計過程における諸作業間の調整が重要になってきているというのが事実である。いわば,鎖状モデルの特質は,位相を変えて保持されているのである。したがって,技術の複雑化と情報技術の導入とが交錯しつつ進行するプロセスは,「設計空間」の相転移として特徴づけた方が適当であると論じた。同様に,産業組織としては分業化が進展しているといわれている半導体産業においても,諸技術・諸作業をインテグレートする仕組みがどのように担われるのかという問題が重要であると言うことを含意している。この論文もまだ学会予稿集に収録されているのみだが,討論を経て公表する予定である。 第3に,日本の技術開発・生産システムの形成史という観点から,「生産性運動」に関する研究を継続して行った。米国から諸技法を導入したにもかかわらず,日本企業の生産システムが「日本的変型」を受けたという事実は,その高い生産効率を説明する歴史的形成過程としてしばしば研究されてきた。しかし,研究開発過程における「日本的変型」に関しては,あまり解明されていない。技術開発・生産システムの形成過程を統合的に理解するために,本年度はとりあえず,初期のQCサークル活動に関する聞き取り調査を行った。
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