Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
アメリカの公的扶助制度は、連邦の制度と各州の制度が併存し、後者が前者を補完する位置付けとなっているが、近年の制度改革により、後者の役割がより重要なものとなっている。この改革は、元来、連邦政府が福祉に対する支出を削減することを主たる目的としてなされたが、連邦は、制度の大枠を設定するにとどめ、具体的な制度設計を各州に委ねる手法が採用された。その中で、代表的なものが個人責任及び就労機会再調整法によって実施されている。連邦から州への上限付きの補助金制度である。これらの改革は、生活困窮者の自立を促進するため、各州が地域の実情に合致したよりきめ細やかなサポートを実施することを可能にし、一定の成果を挙げることができたといえる。他方で、伝統的な自助自律の考え方や、福祉に依存する人々の削減についての具体的な数値目標が掲げられていること等により、自立がより困難ないわゆる底辺に存在する生活困窮者に対する支援が、相対的に後まわしになっている傾向にある点を問題点として指摘できるであろう。このようにアメリカの公的扶助制度は、制度としてみると、他の先進国とりわけヨーロッパ諸国の制度には存在しない特色があり、注目に値する。ただし、そもそもアメリカには、日本のように憲法で生存権を規定しておらず、また、日本よりも相対的に貧富の差が大きい等、社会事情も異なるため、日本の公的扶助制度の検討に際してアメリカの公的扶助制度を参照することは、慎重な考慮を要する。