Budget Amount *help |
¥3,000,000 (Direct Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2003: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2002: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2001: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Research Abstract |
今年度はアルカリ金属ドープC_<60>の電子状態との比較のため,電場効果ドーピングによってキャリアが誘起された時のC_<60>固体の電子状態を調べた.電場効果ドーピングとは,C_<60>を用いた電界効果トランジスタ(FET)構造を作成し,それにゲート電圧を印加することで絶縁膜に接したC_<60>の表面にキァリアを誘起する手法である.電場効果ドーピングでは,原理的にはゲート電圧によってキャリア濃度を自由に変えられ,さらにはゲート電圧の極性を変えることで電子とホールを同様に導入することが可能である.また,他の原子や分子を導入する必要がないので結晶構造が大きく変化することはない.これまでに作成されたC_<60>-FETで得られているキャリア濃度は,キャリアが単分子層にのみ存在すると仮定しても分子当たり0.01-0.04個程度と化学的ドーピングに比べて低い.化学的ドーピングによってC_<60>に分子当たり3個の電子を導入した場合には,超伝導体となる.そのため,これと同程度のキャリア数を電場効果で導入した時のC_<60>の電子状態は非常に興味深く,高キャリア濃度を実現するための試みがなされている.しかしながら,このようなキャリア数をドープした場合には非常に大きな外部電場がC_<60>に加わるので,ポテンシャルの変調が避けられず,C_<60>の表面付近の電子状態はバルクの電子状態とは大きく異なっていると考えられる.このため,その電子状態を議論するには,FET構造における電場効果を考慮した定量的な計算を行う必要がある. 本研究では,電場効巣ドープC_<60>の構造と電子状態を調べるために密度汎関数理論に基づく第一原理計算を行った.この際に,C_<60>単層と電極層からなる2次元周期系のモデルを用いて電場効果を取り入れた.このモデルを用いた計算の結果、キャリア数が単位胞あたり1から3個程度と高濃度にドープした場合に次のような電場効果ドーピング特有の構造と電子状態の変化が起こることが明らかとなった。まず,電荷密度がC_<60>分子の北半球(電極に近い半球)で大きく変化する.さらに,最も電荷密度の変化が大きい上端六角形では,この六角形を構成するC-C結合が数%長くなった.これに対して南半球では電荷密度の変化は小さく,結合長の変化も見られなかった.また,電極が作る一様電場とC_<60>分子内での電荷密度分布の偏りによって,電子に働くポテンシャルが大きく変調され,バンド分散の変化や状態密度の構造の分裂が起こることが分かった.以上の結果は,定性的にはホールドープでも電子ドープでも変わらない.しかしながら,電子ドープC_<60>の方が構造の変化が大きくそれに伴って状態密度の分裂がよりはっきりしている.本研究では,C_<60>単層モデルの妥当性を調べるためにC_<60>(111)層を3層用いたモデルにおいて,同様のキャリア数での計算も行った.その結果,Fermi準位近傍の波動関数は表面層にしか振幅を持たないことが分かった.また,電荷密度も表面層で変化するだけで,内部層ではほとんど変化しなかった.これは,計算で仮定した高キャリア濃度の場合には,電子状態を議論するのにC_<60>単層モデルで十分であることを示唆している.しかしながらキャリア濃度を低くすると,キャリアは内部へ広がり,単層モデルは適用できない.低キャリア濃度の場合として,キャリア数が単位胞あたり0.1個の計算を3層モデルで行い,これを確認した.また本研究では,Thomas-Fermi法による計算も行った.その結果,やはり高キャリア濃度ではキャリアは表面付近に閉じ込められるが、低濃度になればなるほど内部へ広がっていくことが分かった.
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