Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
ベラ亜目はスズキ目に属する1グループで、膨大な種数を誇る一方、特殊な咽頭顎器官を共有することにより単系統群であるとされている。本研究では、スズキ目の中から特にこのベラ亜目に注目して、その系統学的実体をミトコンドリアゲノムに基づく分子系統学的手法により明らかにし、さらには咽頭顎器官の進化過程と多様化の関連性を解明することを目的としている。昨年までの研究により、ベラ亜目は系統的に離れた少なくとも2つのグループ(ベラ類とカワスズメ+スズメダイ類)を含むことが解明され、共有されている特殊な咽頭顎器官はスズキ目の中で独立に複数回進化したことが明らかとなった。咽頭顎器官の進化と多様化の関係を解明するために本年度は、これら2つのグループそれぞれの姉妹群をスズキ目の中から探索する研究を共同研究者とともに進めてきた。しかし500種を超える解析魚種の系統関係を包括的に明らかにするこの試みは、膨大なデータ量からくる計算上の制約などにより多くの時間を要し、現在も進行中である。なお、上記の研究を進める過程において、昨年、ブダイ科のミトコンドリアゲノム内に、脊椎動物一般と異なる遺伝子の配置変動と特異なtRNA偽遺伝子を発見したが、本年度はその分子進化的意義について考察した。脊椎動物のミトコンドリアゲノムでは遺伝子配置は高度に保存的であり、かつ無駄な配列はほぼ全く存在しない(偽遺伝子が生成してもすぐに脱落する)が、ブダイ科魚類は同じ遺伝子配置変動とtRNA偽遺伝子を共有している。このことは、共有されている遺伝子配置変動は科の共通祖先で起こり、かつ、偽遺伝子は少なくとも1千万年以上にわたって維持されてきたことを示している。問題の偽遺伝子の二次構造とゲノム内での位置を考慮した結果、この一見無駄な配列は、ミトコンドリアゲノムの一次転写産物が正しく切り出されるための「句読点」としての機能を保持しており、このことによりゲノムからの脱落を免れていると考えられた。以上の結果は本年度の日本進化学会で発表し、ベストポスター賞を受賞した。
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