Research Abstract |
左側の側脳室下角の拡大を確認した精神分裂病剖検脳と年令,性を一致させた対照群の剖検脳を用いて,各々9の脳部位について,百日咳トキシンによるADPリボシル化反応を行い,G/Go量を測定した。さらにそのうちの各々6部位についてエンザイム・イムノアッセイ法により,GoαとGi2αを測定した。精神分裂病群では左側の側頭下角壁を構成する海馬でGi/Go量が低下していた。右側の海馬では対照群との間に有意差は認められなかった。左側の被殻でもGi/Go量が低下していた。右被殻では有意差は認められなかった。その他の脳部位では同様の有意差を認めなかった。この被殻でのGi/Go量の低下はド-パミンーD_1ーアデニレ-トシクラ-ゼ系活性の亢進を示す所見かもしれない。すなわち.線状体におけるD_1ーGsーAC系とD_2ーGiーAC系のバランスの崩壊が精神分裂病の病状発症と深く関連している可能性が考えられる。左海馬でのGi/Go量の低下は同部位でのGABAーB,5HTlAなどの受容体と百日咳感受性G蛋白とが共役していることから,この系の障害が精神分裂病の病態と関連することも考えられた。さらに,エンザイム・イム/アッセイ法により測定したGoαの値は前頭眼景面でのみ精神分裂病群で低下していた。その他の脳部位では有意差を認めなかった。Gi/Go量で認められた左海馬と左被殻での低下はもっぱらGi(Gilα)の低下によると考えられた。従来より精神分裂病では前頭部のhypofrontalityが存在する可能性が指摘されており,本研究の所見はそれを支持すると考えられた。Gi2αは組織による濃度差が少なく,遺伝子的にはGi2αmRNAはハウスキ-ピング遺伝子であると推定されているが,本研究でも,各脳部位とも有意差のある所見は認められなかった。
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