Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
ラン色細菌は形態的に多様かつ複雑性に富むバクテリアで、進化の初期段階で形態的多様性を獲得したと考えられている.報告者は、ラン色細菌の形態上の進化過程を明らかにするため、遺伝学、分子系統学、古生物学的手法を用いて、以下の研究を行った.1.ラン色細菌の形態的多様化の分子的背景ラン色細菌の細胞分化の一つであるホルモゴニア形成の分子機構の解明を目指し、生理学的・分子遺伝学的実験を行った。ホルモゴニア形成の分子的背景がわかれば、ラン色細菌の形態進化だけでなく、植物-ラン色細菌の共生関係成立の過程を知る手がかりとなることが期待される。報告者は、糸状性ラン色細菌のモデル生物Nostoc punctiformeから、ホルモゴニア形成に関与すると見られる新規遺伝子の候補6個を同定した。Nostocのホルモゴニア形成は、光や栄養条件といった物理的環境要因のほか、共生植物の存在によっても誘導される。6個のNostocの変異個体をそれぞれを宿主植物であるBlasia sp.と共生させる実験を行った結果、ホルモゴニア分化、共生コロニーの形成は全く、あるいは野生型に比べて非常に低い頻度でしか起こらず、同定された遺伝子がホルモゴニア形成に関与することが確認された。2.スティゴネマ目のラン色細菌の系統進化ラン色細菌の中でも最も形態的複雑性の高い、スティゴネマ目5属を対象に、3個の遺伝子をマーカーとして分子系統樹を作成した。その結果、形態に基づく従来の分類による属の定義は、分子系統解析の結果と矛盾する点があることが示唆された。3.古生代のラン色細菌の化石の研究デボン紀の植物化石を含む岩石試料から薄片を作成し、微化石の観察を行った.