Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
脊椎動物の網膜に存在する視細胞は、桿体型と錐体型の2種類に大別されている。これらは、形態的に異なるばかりでなく、桿体は暗所視、錐体は明所視と役割も異なる。両者の違いについては、光情報伝達系や、視覚回路など分子レベルで詳しく調べられつつある。当研究室では、桿体・錐体を分けて採取する方法を確立しているので、それぞれの視細胞で発現する遺伝子の解析を試みた。まず、RNAを抽出する試料の収集法を検討した。これまでに桿体画分からはRNA抽出に成功していたが、同様の方法によって得た錐体画分由来RNAには、ミトコンドリアマーカーは含まれるが、錐体マーカー量はわずかであった。そこで収集法を改良した結果、錐体マーカーを充分量含む試料を得ることができた。先の試料を用い、SSH法によるサブトラクションを行った。ランダムに抽出した576 cloneのうち、マクロアレイによって、343 cloneをrod rich、88 cloneをcone rich遺伝子の候補とした。それぞれのcDNAクローンの塩基配列を決定したところ、rod rich遺伝子候補の中には、桿体型cGMP gated channel alpha、 トランスデューシン、ロドプシンなど桿体に特異的に発現することが知られている遺伝子が含まれていた。一方、cone rich遺伝子候補の中には、これまで錐体で特異的に発現することが知られている遺伝子と相同な配列は見られなかった。これらの候補遺伝子が実際に桿体または錐体特異的に発現してることを検証するために、in situ hybridization法1こよって発現部位を調べた。桿体特異的に発現する遺伝子候補配列のうち8配列について調べたところ、桿体特異的に発現するものは見いだせなかった。錐体特異的に発現する遺伝子の候補については、4配列について調べたところ、aryl hydrocarbon receptor 2とAcyl-CoA-binding protein 4がコイ網膜において錐体に多く発現し、N-myc downstream regulated gene 1が錐体特異的に発現していることを確認した。今後、これらの遺伝子の役割について解析されることにより、桿体・錐体の違いを産み出す分子基盤を明らかになるものと期待される。