Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究では、ミトコンドリアを介した細胞死を調節する鍵となる"BADと14-3-3分子の結合・解離"を可視化する方法を新規に開発し、生きた細胞での両者の結合・解離とアポトーシスをリアルタイムに観察することによって、様々な刺激に応じた細胞死調節の実態に迫った。具体的には、BADと14-3-3分子それぞれに蛍光タンパク質CFPとYFPを付け、両分子の距離を蛍光エネルギー移動(FRET)効率で測定した。昨年度までに本方法のin vitroでの評価を終え、生きたFL5.12細胞への適用にも成功した。そして、従来BADは14-3-3分子と解離した後には速やかに細胞死を誘導すると予想されていたが、実はBADが14-3-3分子と解離しても必ずしも細胞死を導くわけではないということを明らかにした。本年度は、BADが細胞周期の進行に不可欠なキナーゼであるCdc2にリン酸化されると14-3-3分子と解離することを明らかにした。分裂を繰り返す細胞の中で、BADと14-3-3分子は細胞周期と同調して結合解離を繰り返していたのである。さらに、細胞周期の中でもBADと14-3-3分子が解離するG2/M期にはアポトーシスの進行が早いことも明らかにした。この研究成果は、増殖因子の欠乏を原因とするミトコンドリアを介した細胞死の機構が細胞周期とも連携していたという点で大きなインパクトを与えるものである。また、長らく明らかにされていなかった抗癌剤・タキソールの作用機構として、タキソールがCdc2の活性を上げることによってBADを介したアポトーシスを起こり易くするのであろうと提案した点では、がん治療法の開発にも貢献するものである。現在はこれらの成果を論文にまとめ、雑誌掲載に向けて海外のrefereeと議論しているところである。