Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
コムギ、オオムギ、ダイズなど主要作物の多くは、耐湿性、冠水抵抗性が低いために、異常気象による洪水時には、甚大な被害が出てしまう。このため、耐湿性の低い作物に耐性を付与し、耐湿性の高い作物を作出することは非常に重要である。イネは湿地にて生育できる、耐湿性、冠水抵抗性の高い植物である。したがって、イネと耐湿性の低い作物とを比較することで耐性、適応性の機構を明らかにし、その機構を耐湿性の低い作物へ応用することが可能になれば、農業上の大きな発展となる。そこで、この目的のために本研究ではイネ、トウモロコシの幼植物体と、イネの冠水発芽時に特徴的な器官である子葉鞘の伸長について、ミトコンドリア型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)に着目して、研究を行った。トウモロコシのALDH2(RF2AとRF2B)は冠水により減少し、冠水解除後にも大きな変化は見られなかった。また、ALDH活性も冠水により減少し、冠水解除後には冠水前の水準に戻るにとどまった。ALDHが基質とするアセトアルデヒドは、イネでは冠水解除後4時間で減少し始めるが、トウモロコシでは冠水解除後、増加の傾向が見られた。機能的なRF2Aを欠いたトウモロコシは、冠水と冠水解除により野生型の植物体と比較して重度の傷害を受けた。これらのことから、植物の耐湿性、冠水抵抗性には、ALDH2によるアセトアルデヒドの、速やかで効率的な無毒化が重要である可能性が示唆された。イネの種子が冠水状態に置かれると、発芽に適した温度であれば子葉鞘が伸長する。冠水状態の子葉鞘においては2種類のALDH2のうち、ALDH2aの蓄積のみが見られた。ALDHの阻害剤であるジスルフィラム、シアナマイド、クロラルハイドレートのそれぞれの水溶液にてイネの種子を冠水し発芽させたところ、三種類の物質の間で影響を及ぼす濃度に違いがあったものの、いずれにおいても水中での子葉鞘の伸長が抑制された。