Research Abstract |
糖質は生命活動において不可欠な物質であり,また,人間社会においても環境調和型の資源・エネルギー(バイオマス)として注目を集めている。このような糖質と金属イオンの相互作用は様々な観点から重要であるが,特に,金属錯体による穏和な条件下での糖質変換反応は将来の人類社会にとって重要な課題である。報告者らはこれまでに様々な糖質を含む遷移金属錯体の合成を行い,その構造や反応性について分子レベルでの解明を行ってきた。本研究では,バイオマスである糖質の穏和な変換・合成を促進する環境調和型錯体分子や糖質をキラル源とした新たな二元系金属錯体触媒の構築と機能化を目的とする。 生体内では,糖質の合成及び代謝(分解)において,ほとんどの場合,リン酸エステルを中間体とした効率と立体選択性の高いプロセスを構築しているが,人工的にこのようなシステムを構築することは全く行われていない。我々は,金属錯体を用いた遊離糖質の変換反応を目指して研究を行ってきたが,Cu(II)金属二,三,四核中心が糖質N-グリコシドや糖質リン酸エステルを固定・安定化することを見いだした.このような錯体上での,遊離糖質の効率のよい変換反応(異性化反応),分解反応,糖鎖合成反応の開発を目指して研究を行った.具体的には,Cu(II)イオン,bpy,D-Glucose-1-リン酸との反応から,[Cu_4(OH)(Glc-1P)_2(bpy)_4]X_3の組成を有するCu(II)四核錯体を高収率で合成しその詳細な構造を明らかにした。この錯体はATP,IMPなど核酸と速やかに反応しグルコース1リン酸と核酸が交換し構造変化を経由した新たな四核錯体を得られた。また,過剰量のグルコース(種々のアルドース)との反応ではpH〜6.5の弱酸性条件下で,グルコースが酸化的開裂を受けシュウ酸を配位子とするCu(II)二核錯体が生成した。同位体標識した実験からシュウ酸は原料であるグルコースの1位2位の炭素ユニットから酸化的に生成しているものと推定される。一方,天然に豊富に存在する糖質(D-Glucose,D-Mannose等)を不斉源とした配位子の設計を行い,金属錯体の合成と構造決定及び触媒反応について検討も行った。具体的には,D-Glucoseを不斉源とした種々のイミン系配位子を設計し,これらを配位子とした遷移金属錯体触媒の合成を試みた。現在までのところ,フェノキソ骨格を持つ不斉糖イミン配位子とCu(II)イオンとの反応から,キラルなCu(II)三核錯体を合成しその詳細な構造をX線結晶構造解析により明らかにした。これらの糖質含有錯体を触媒に用いることにより,天然に豊富な糖質を不斉源とする触媒反応の可能性について検討を行う予定である。
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