Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本年度は、平成15年度より行ってきたツォンカパの空思想に関する文献のなかからその基本構造と基礎理論と思われるものを抽出したものを整理し、特にそのなかでも理論的に核心的な役割を果たすものについて、総合的な考察を行った。その結果、以下の点を明らかにすることができた。1)ツォンカパの空思想は、基本命題「空の基体xは否定対象yについて空である。何故ならばzであるからである」というひとつの命題のみによって形成され、それ以外の命題の形式を拒絶しているところに特徴がある。2)しかるに空思想のあらゆる問題は、空の基体・否定対象・否定・否定を成立させる正理知/論証因の問題に還元することができる。3)通常、否定対象たる倶生起の法我執の思念対象と「単なる有」との両者は無区別な混合状態でのみ顕現しているが、この混合状態より、元来存在しないはずである否定対象を作業仮説上設定し、混合状態から倶生起の法我執によって捉えられている領域部分のみを抽出化し、差異化する作業が否定対象の分岐点を設置することが否定対象の確認である。4)否定対象の確認という発想は、空を捉える知と空でないものを捉える知との対立関係に立脚した、「我々の心の奥底に潜んでいる輪廻の根本原因となる無明とは何か」という問題そのものへと還元できる。5)「Sにとってxはyである」という伝統的な空性を表す命題の形式をツォンカパは採用しない。何故ならば、そこには当事者性が付加されており、命題自体を普遍的事象「xはyである」という命題とは意味空間が異なるからである。6)ツォンカパの空思想は、空を捉える知(正理知)と空でないものを捉える知との対立関係に立脚した、「我々の心の奥底に潜んでいる輪廻の根本原因となる無明(倶生起の法我執)とは何か」という煩悩論へと還元できる。
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日本西蔵学会会報 第52号(未定)
110006164663