Research Abstract |
抑うつに関する研究は,Freud, S.に始まる精神分析的研究,Beck, A.の抑うつの認知理論がよく知られるが,精神分析理論にもとづく抑うつの検討は,実証的レベルでは十分になされていない。抑うつに関しては,ベック抑うつ質問紙(Beck, Ward, Mendelson, Mock, & Erbaugh, 1961)をはじめ,多くの測定尺度が開発されている。本研究では,主観的無気力感が抑うつに影響を及ぼす過程に位置する予備的兆候に関して,精神分析的視点による検討を試みるため,まず,抑うつの認知社会心理学的研究に関する文献レビューを詳細に行った。 本研究では,谷(1998)で示唆された基本的信頼感と抑うつとの関連について,既述した抑うつの諸尺度の文献的検討を踏まえた上で,概念間の関連性についての理論的構築を行うことを目的とした。本研究で意図する仮説モデルは,基本的信頼感から主観的無気力を媒介として抑うつへと影響する因果関係と,基本的信頼感のみが抑うつに影響する経路とが想定される。理論的には,基本的信頼感が抑うつを規定する程度に比べ,主観的無気力が抑うつに直接影響を及ぼす程度は強くないと考えられる。こうしたモデルの理論的妥当性を明らかにするため,本研究では,Erikson (1959)の漸成発達理論に関する詳細な文献的研究を行った。それに並行し,Klein (1975)の対象関係論や土居(1971)の甘え理論などいくつかの重要な精神分析理論について,詳細に文献的研究を行った。こうした基礎的研究は,今後の実証的モデル生成段階への土台となると考えられる。
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