Research Abstract |
まず,純γFeの表面融解をシミュレートし,その温度依存性および面方位依存性について調査した。このために,(100),(110)及び(111)表面を有する厚さ約88nmのγFeの薄膜モデルに対してMD計算を行った。表面融解層は各面方位において生成すること,また,現実にγFeが存在する温度においても,γFeに表面融解層が生成する可能性があることを示した。 次に,Cを2及び4at%固溶するγFeの場合,およびCがγFe表面から拡散(浸炭)する場合について,純γFeと同様の計算を行なった。その結果,Cを固溶したγFeの場合では,(1)温度が上昇するにつれて,Fe表面付近のC濃度は増加するが,CはFeの最表面には存在しないこと,(2)C濃度の増加にともなって表面付近のFe原子の平均二乗変位が大きくなり,表面融解層が生成し,融解の起点となること,また,(3)C濃度の高い薄膜モデルほど,より低温で融解することを明らかにした。さらに,(4)生成した液相とそれに接する固相との界面において,C濃度に大きな差が生じることを見出し,融解がさらに進行するには,この界面付近に固相内部からCが拡散してくる必要があることを見出した。また,浸炭のモデルからは,一定温度において,表面融解層が厚く生成する(110)では,浸炭反応が他の面方位よりも速く進行することがわかった。 最後に,以上の知見をもとに,表面融解を利用した溶鉄製造の低温化の可能性ついて検討した。γFe-C系においては,表面融解が融解の低温化に有効に働く粒子径を約10nmとMD計算より見積もった。例えば,このサイズの(110)表面をもつFe粒子にCを接触させることで,ナノ粒子に対して熱力学的に予想される液相線温度よりも40K以上低い温度において溶鉄を製造できる可能性がある。
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