Research Abstract |
【背景】Fractalkine(FRK)は細胞の遊走と接着の双方に関与するケモカインで,小腸でのFRK/CX36R1発現は腸管上皮層内リンパ球の維持とCrohn病の病態形成に関与する.原発性胆汁性肝硬変(PBC)は肝内小型胆管の選択的な破壊と消失を特徴とする自己免疫性肝疾患で,胆管周囲及び上皮層内へのリンパ球浸潤が病態形成に重要である.今回我々は,肝内小型胆管におけるFRK/CX3CR1発現とFRKの発現調節機構について検討した.【材料と方法】対象はPBC(1〜2期)17例,原発性硬化性胆管炎9例,閉塞性黄疸10例,C型慢性ウイルス性肝炎20例,組織学的正常肝18例,肝内小型胆管におけるFRK,CX3CR1発現を免疫組織化学染色(IHC)にて検討し,胆管周囲炎症細胞をCX3CR1とCD3,CD4,CD8との蛍光二重染色にて検討した.胆管上皮をmicrodissectしRT-PCRを行った.肝内胆管癌細胞株(HuCC-T1),ヒト肝内胆管細胞培養株(HIBEC)でのFRK,CX3CR1発現をIHC,RT-PCRにて検討し,細胞株に対する種々のサイトカイン刺激によるFRK発現の動態をreal time PCR, Western blot, ELISA法にて検討した.HuCC-T1を用いCX3CR1^+細胞株(THP-1)のchemotactic assayを行った.【結果】IHCでは対照群に比しPBCでの肝内小型胆管の有意なFRK発現亢進と門脈域内CX3CR1^+細胞数の増加を認め,CX3CR1^+T細胞の胆管上皮層内浸潤像を認めた.microdissectした胆管上皮からFRK/CX3CR1 mRNAを検出した.胆管培養細胞に対するLPS,IL-1β,IFN-γ,TNF-a刺激にてFRK mRNA発現が亢進し,培養細胞及び培養上清中のFRK蛋白の増加も認めた.IL-4,IL-6刺激によるFRK mRNA発現誘導は明らかではなかった.HuCCT1によるTHP-1遊走活性はLPS刺激で増加し,recombinant FRK,CX3CR1抗体投与で阻害された.【考察】PBCの障害胆管周囲の著明な炎症細胞浸潤はサイトカインネットワークの存在を示唆する.今回,in vivoにてPBCの障害胆管でFRK発現が亢進し,胆管周囲及び上皮層内にCX3CR1^+細胞の浸潤を多く認めた.in vitroにて培養胆管細胞でのLPS,IL-1β,IFN-γ,TNF-a刺激によるFRK mRNA,蛋白の発現亢進が認められ,CX3CR1^+細胞の遊走がFRK/CX3CR1系によることが示された.以上より,PBCの胆管周囲にみられる特異的な炎症が肝内小型胆管上皮のFRK過剰発現によることが明らかとされた.
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