Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
今年度は学位論文の完成に向けて作業を行った。7月にオーストラリア・カトリック大学メルボルン校で開催された西太平洋教父学会でキリスト教著作家から見たユリアヌス像の概要について口頭発表を行い、8月にオクスフォード大学ボードリアン図書館で資料調査を行った結果、新たな課題が明らかになった。キリスト教著作家の著作にみられるユリアヌス像については、その資料の性質と目的に応じて、彼らの理想とする「正しい宗教」から逸脱した存在としてユリアヌスが描かれていることは確かだが、「背教者」像の描かれ方には史料の目的に応じて大きな差異がある。ナジアンゾスのグレゴリオスやアレクサンドリアのキュリロスの『ユリアヌス駁論』のような著作家個人の思索を深めるための論考、ヨハネス・クリュソストモスの著作に代表される特定の教会共同体の一般信徒を聴衆に想定する講話、ソクラテスやソーゾメノスの『教会史』を代表とする歴史叙述、それぞれの叙述の特徴と5世紀までの時代的変遷を検討したが、背景についてはさらに考察が必要である。また、ユリアヌスの宗教思想に大きな影響を与えた新プラトン主義者、イアンブリコスの祭儀論の実態を検討する必要が生じた。近年の新プラトン主義研究の隆盛を背景に、ユリアヌスを「新プラトン主義的一神教徒」とする見解が主流になりつつあるが、実際のユリアヌスは都市共同体を支持基盤とする伝統的な多神教祭儀を推進したのであり、必ずしも「一神教徒」という指摘は的確ではない。イアンブリコスの祭儀輪には「宗教的熟練者の技術」と.しての神働術を称揚する秘教的な側面は確かに存在するが、一般の人々と神々の交流の手段としての伝統的多神教祭儀の存在意義をむしろ肯定している。それに加えて、イアンブリコスの祭儀論の政治的側面に注目し、ユリアヌスの儀礼論と比較する必要がある。さらに研究を深め、学位論文を来年度中に完成させる予定である。
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新プラトン主義研究 5(編集中)
インタープリテーション 日本版 73(印刷中)
パトリスティカ 9(編集中)
宗教研究 78-2
Pages: 450-462