Research Abstract |
ジュネーブのCERN研究所内にある、反陽子減速施設(AD)において、当初の計画通り、反陽子ヘリウム原子(pbar-He^+)の高励起状態に関するレーザー分光実験を行った。 反陽子ヘリウム原子は、AD施設からの低速な(運動エネルギー=5.3MeV)反陽子ビームを、低温なヘリウム気体中に静止させる事によって生成される、3体のエキゾティック原子である。標的としてヘリウム原子の同位体、^3Heと^4Heを使うことで、2種の反陽子ヘリウム原子同位体を作ることが可能である。 今回の実験においては、波長が赤外線領域にあるレーザーを使用することにより、高い励起状態(主量子数n>40)に関する知見を得ることが目的であった。反陽子ヘリウム原子に対し、750nmより波長の長いレーザーを使用するのは、今回が初めての試みであったが、760nm付近の波長に関しては、特殊な装置を用いることなく、色素によって実験の遂行に十分なレーザー光を生み出せることを実証した。そして、過去の実験によって確立されたレーザー分光の手法により、pbar-^4He^+の(n,1)=(41,36)→(40,35),そしてpbar-^3He^+の(41,36)→(39,34)という、これまで観測されたことの無かった2つの高励起準位からの遷移を、新たに観測する事に成功した。観測されるシグナルが非常に弱かったため、遷移波長や寿命の精密決定には至らなかった。しかし、遷移波長はそれぞれ758.0nm,759.8nm付近であり、また、シグナルが弱いことから、これらの準位のポピュレーションは、近傍の準位と比較すると1桁程度小さいようであることが判明した。これが、高励起準位が過去に発見されなかった最大の要因であると考えられる。更に、準位の寿命は、ヘリウム気体標的の密度に依存して変化するようである事も分かった。
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