Research Abstract |
談話構造の認識が指示詞の解釈にもたらす影響をモデル化することは本研究の課題のひとつである.談話中で用いられる指示詞の指示領域を同定するためには様々な要因を考慮しなければならないが,その中でも,特に重要な要因として,以下の2つの要因があげられる.ひとつは,談話進行にともなう注意の変化であり,もうひとつは,談話セグメント間の関係の認識がいかに行われるかということである. 以上の点を踏まえ,本年度は,談話構造の認識と指示詞の解釈の相互作用をモデル化するため,Grosz & Sidner(1986)の理論(以下,GS理論)に基づいて,談話の進行にともなう主体の注意状態の推移をフォーカス・スタックにより動的に把握し,指示詞の指示領域をいかに同定するかを課題とした. GS理論の枠組みに加え,談話セグメント間の関係を明確に記述するために,Mann & Thompson(1988)の修辞構造理論(Rhetorical Structure Theory,以下RST)を導入し,これらの理論を統合する観点からの指示詞解釈モデルを考察した. このようなモデルの構築にはRSTに基づくフォーカス・スタックの定式化が必要であった.そこで,RST構造をフォーカス・スタックにマッピングする際の問題点を明らかにし,指示領域の同定の観点から妥当なフォーカス・スタックの定式化を提案した.また,モデルをデータに適用した結果から,談話中における中心的な情報が指示詞を用いて参照されやすいという性質があることがわかった. この研究成果は電子情報通信学会・思考と言語研究会において発表し,「指示詞の解釈からみた談話セグメントの構造化」として『電子情報通信学会技術研究報告,TL2004-1〜21』に掲載されている.
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