紀元前1千年紀中頃から北方ユーラシアの草原地帯で活躍したスキタイ・サカ・月氏・烏孫等の古典的騎馬民族の文化を代表する遺物として、馬具、武器(アキナケス武短剣・三翼鏃)、動物意匠などが知られている。これらについては既に整理・分析を行なっているので、本研究では、それらの他に、騎馬民族の王墓からほぼ普遍的に出土し、埋葬儀礼と密接に結びつくと考えられている銅〓を取りあげ、その型式分類、製作技法の検討を通じてその変遷を追及、黒海北岸から朝鮮半島に至る広大な地域でどのように伝播・交流したかを明らかにすることに主眼を置いた。 その結果、銅〓には黒海沿岸のスキタイ・サウロマタイの領域から南シベリアに分布する西方群と、モンゴル高原から中国東北地方に分布し主として匈奴の所産と思われる東方群に2大別できること、さらに各々には有脚・無脚の2種があることが判明した。また、装飾付把手を持つ特異な一群は東ヨーロッパからカザフスタンにかけて分布し、紀元後の所産であるところからフン族のものである可能性が強い。近年朝鮮半島南端で発見された銅〓はこのうち東方群無脚式で、中国東北地方との関連性が強く、鮮卑族の所産ないしはその影響下にあったものであると考え得る。一方、この種の銅〓には伝統的な中国青銅器との類似性も見出せるので、騎馬民族文化と中国文化が融合した可能性もある。鐙などの馬具にも同様の傾向が見出せるところから、日本の後期古墳時代に見られる騎馬民族的に文化要素は、中国東北地方で発達したものが部分的に伝わった可能性が強い。 年度の後半になって交付決定したため、未だ蒐集した資料の分析段階にあり、今後分析を深め、上記の見通しを補強してゆきたい。
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