Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
オナジマイマイとコハクオナジマイマイの未交尾の成熟個体を用い、性フェロモン活性をもつ空媒性物質の検出にあわせたオルファクトメータを開発した。本2種は、互いを識別して同類交配をするものの、識別が完全ではないため種間での交尾が実験条件下で2割程度の頻度で生じる。この雑種第一代は、コハクオナジマイマイからのみ得られ、オナジマイマイは種間交尾しても産卵しない。コハクオナジマイマイから得られた雑種第一代の性フェロモン感受性および性フェロモン生産能を検定することにより、雑種第一代の戻し交配が自然状態で生じる可能性を検討した。結果として、雑種第一代の分泌する空媒性物質は、コハクオナジマイマイの成貝もオナジマイマイの成貝も誘引するが、どちらの種も、成熟前の個体は誘引されないことが判明した。したがって、ここで検出している空媒性フェロモンは性フェロモンであり、集合性フェロモンではないことが明白である。雑種第一代は、両種の性フェロモン分子を生産する能力があることも、以上の結果は示唆している。ところが、雑種第一代の成熟個体は、コハクオナジマイマイとオナジマイマイの成貝の分泌する空媒性物質には誘引されないことが判明した。以上の結果から、性フェロモン産生能および配偶者の誘引効率においては雑種強勢がありながら、その性フェロモンの感受能においては雑種崩壊が生じることになる。したがって、雑種の適応度が配偶成功率において本2種と比べ低いのか否かを検証する数理モデル解析が今後の重要な課題として浮上した。本研究により、陸棲巻貝カタツムリの空媒性性フェロモンの効果を行動実験により初めて検出しただけではなく、雑種第一代の適応度を大きく左右する配偶者誘引能と感受性能に予想されなかった拮抗的な変化が生じることが判明した。これらの結果は、野生集団で進行している種間の遺伝子流動の方向と頻度を予測する上で重要な知見である。