Research Abstract |
フェノールは世界年産約700万トンの基幹化成品であり,種々の高分子材料の中間体として重要である。現在,全世界のフェノール生産プロセスの90%がクメン法で占められている。クメン法は3行程から成っており,アセトンを併産し,環境負荷が大きく,設備を腐食するといった問題がある。本研究では,酸素分子によりベンゼンから直接一段でフェノールを合成する触媒の開発を目指している。 ヘテロポリ酸は強い酸性と酸化力を併せ持ち,構成元素を種々の金属原子に置換することにより酸性・酸化力および活性点の構造を系統的に制御できる。そのため,Cu,Ti,Pd,V,Fe,Nbなどの活性遷移金属をヘテロポリ酸の骨格の中に導入し,均一系バッチ反応器でベンゼンの直接酸素酸化を行った。合成した[(C_4H_9)_4N]_5[PW_<11>CuO_<39>(H_2O)]触媒は323K,12時間の反応で9.2%のベンゼンの転化率と91.8%のフェノールへの選択率を示し,TON値は25.8に達しており,文献に報告された触媒の中で最も高い性能を示した。遷移金属イオンの性能はCu>V>Fe>>Mn>Ti>Cr>Co>Ni>Znの順序で,ヘテロポリ酸の中央元素はP=Si>Ge>Bの順序でベンゼンを酸化する能力が低下する。スルホラン(Sulfolane)溶媒はフェノールへの選択率を向上させるが,量が多くなるとベンゼンの転化率を低下させる。アスコルビン酸(Ascorbic acid)は必要な還元剤である。反応系の中で酸素の圧力が高くなると,より多くの酸素分子は溶媒の中に溶け込まれるため,ベンゼンの転化率が向上する。 メソポーラスシリカ多孔体(HMS)は高表面積(>1000m^2/g)と均一な細孔(〜4nm)を有しており,触媒担体として魅力がたくさんある。そのため,ヘテロポリ酸触媒を表面修飾法によりメソポーラスシリカ多孔体の表面及び細孔内に固定化させ,ハイブリッド型触媒を創製し,新規高性能なベンゼンの直接酸素酸化用触媒の開発を行った。開発した反応系の中で,HMS-PMo_<10>V_2O_<40>+Pd(OAc)_2系は393K,6時間で8.1%の転化率と81.4%の選択率を得て,初めて非均一系で,還元剤なしで酸素分子によるベンゼンからフェノールへの直接合成に成功した。触媒をろ過回収し,5回再利用しても,活性成分は反応液に脱離せず,活性は低下しなかった。
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