Project/Area Number |
04J10421
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Research Field |
ヨーロッパ語系文学
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安達 大輔 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2004 – 2005
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Project Status |
Completed (Fiscal Year 2005)
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Budget Amount *help |
¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2005: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2004: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
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Keywords | ロシア文学 / 18世紀 / 19世紀 / 文学史 / サロン文化 / 告白文学 / コミュニケーション / メディア論 / 公共性 / ジェンダー |
Research Abstract |
本年度は、18世紀末から19世紀前半におけるサロン的読者像の変容を、記号の透明性の変化と据え直す分析を行った。 1800年前後のロシア・センチメンタリズム文学、特にカラムジンは、記号の多義性がうみだす誤読の可能性を打ち消し、「作者」の世界観を読者にくまなく伝達することを目指していた。泣くことや詠嘆の身振りとして身体化されたかたちで「作者」が提示するテクストの読み方を、読者が「正しく」模倣することによって、「作者」と読者が鏡像的な関係を結ぶ読者共同体が成立する。 しかし、記号の多義性が透明なコミュニケーションを妨げるという潜在的な危機は、1830年代のロマン主義作品においてサロン的な読者共同体の破綻として経験される。公開研究会「テクストと身体」(新潟大学人文学部研究プロジェクト「文化史・文化理論の再検討」主催)における発表で明らかにしたように、オドエフスキイは「社交界」を題材にして、噂・会話・手紙といった言語のネットワークに「穴」が空いているために単一な現実が構成されず、複数の現実が並列する空間を描いている。 同様の問題が、ゴーゴリ『狂人日記』(1834)では、自己の内面を語る声が文字によって透明に伝達される「告白」の破綻として扱われている。語り手は文字に同一化することで複数の声で話せるようになるが、声の獲得が既存の言語=社会の秩序から逸脱するとき、不可解な文字へと語り手は解体される。この点をまとめた論文を、ロシア文学会誌『ロシア語ロシア文学研究』へ現在投稿中である。 社会的に理解可能なものとして広がっていた言語の平面に、そこへ回収されない「謎」として身体や内面、個人が位置づけられることで、文学テクストは解釈を要求すると同時に決定不可能にするような、言語の自己言及の場として自律してゆく。本年度の研究は、サロン的コミュニケーションの変容という視点から文学史を読み直す可能性を提示した。
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