Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 1993: ¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
|
Research Abstract |
生体リズムは脊髄のリズムジェネレータや各器官の振動子,および高次中枢の振動子間の相互作用によって形成されていると考えられる。我々はこれらリズム間の相関や,外部からの刺激(運動負荷,温度変化,睡眠等)によって個々のリズムがどんな変動を受けるか調べてきた。 本研究では,中枢のパターンジェネレータ(CPGs)と呼ばれる神経ネットワークを扱う。CPGsは数個もしくは多数の神経細胞からなりコヒーレントでバースト的な振動パターンを出力し,運動ニューロンを制御し,呼吸,歩行などのリズムを生成する。これらのCPGsリズムは,末梢受容器からのフィードバック信号や高次中枢からの制御信号によって変調される。CPGsのリズムは複数の神経細胞から構成されるネットワークの協同現象により作り出されているが,その振舞いは比較的単純な非線形振動子として捉えられる可能性がある。このことは,系の状態空間に安定なリミットサイクルが存在することに対応する。摂動(これは末梢受容器および高次中枢からの信号に対応する)に対する系の時空間的なダイナミクスを明らかにすることは,生体のリズム現象の解明につながるとともに,高次中枢の神経ネットワークにおけるダイナミックな情報処理様式の解明にもつながると考えられる。以下に示す手順で研究を行った。 (1)CPGsモデルの構成 興奮性および抑制性結合を含む連想記憶型ネットワークを用いたCPGsモデルを構成した。学習は一般化されたヘブ学習を用いた。系を構成する神経細胞モデルとして,いわゆるconventional neuronではなく,ホジキン-ハクスレ方程式を単純化した可興奮-可振動力学系モデルを用いた。その結果,モデルは複数の振動パターンを発生し,またそれらの振動パターン間を周期的に渡り歩く。 (2)リミットサイクルの安定性 振動パターンを出力する系の摂動に対する安定性をポアンカレ写像を用いて検証した。 (3)周期的な摂動に対する応答 正弦波入力に対するモデルの応答特性を解析した。その結果,入力と系のリズムがある位相で固定される同期応答や,不規則なカオス応答などが観測された。このような大域的応答特性を分岐図を用いて解析した。ネットワークの応答は,単一のリミットサイクル振動子の応答と比較され得るものであった。 (4)今後の課題 本研究では比較的少数の細胞からなる連想記憶型ネットワークを扱った。モデルの解析では,ネットワークを構成する細胞数が多くないので,統計力学的手法を用いた理論的な解析は困難である。反面,コヒーレントな振動はリミットサイクル上に定義される位相を用いて低次元に還元されるため,系の位相のダイナミクスに焦点を当てることで系の振舞いを記述することが可能である。今後の課題は,系の応答を位相を用いて定性的に記述することである。
|