Research Abstract |
近年,脱ガソリン車としてメタノール車が注目されているが,その際,燃料系部品材料の適合性が問題となる.一方,自動車への軽量化ニーズにより,各部にAl合金が使用されているが,メタノール中でのAl合金の腐食に関する報告はほとんどない.本研究ではエンジンの一部に使用されているAC8A合金を試料に用い,メタノール燃料の主な不純物である水とCl^-イオンがAC8A合金の腐食挙動に及ぼす影響を,電気化学測定により調べ以下に結論を得た。 すでに著者らが示したように鉄のメタノール中での不働態化には水の濃度が大きく影響し,水がほとんど存在しない場合不働態化しない.ところがAC8A合金の場合,水が存在しない場合でも安定した酸化被膜を形成し,溶解反応を抑制するが,逆に高濃度の水が存在する場合,AC8A合金表面に形成された酸化被膜は不安定であり,溶解反応速度が大きくなる.AC8A合金表面に生じた酸化被膜は,Alとメタノールとの反応生成物,例えばメトキシドのような沈殿被膜であると考えられる.この被膜はメタノール中で安定に存在し溶解反応を抑制するが,水の存在下では加水分解反応によって溶解し,その結果アノード溶解電流が増大すると考えるのが妥当である.交流インピーダンス測定の結果より,メタノール溶液中で腐食しているAC8A合金の等価回路は,いずれの条件でも腐食反応抵抗Rcrと電気二重層容量Cdlの並列回路で表わされる.Rcrは含水量に依存せず,1週間の浸漬中ほぼ一定であった.アノード溶解電流が含水量とともに増加するのに対して,Rcrがほとんど一定の結果となったのは,カソード還元電流が含水量の増加とともに減少することに起因すると思われる.すなわち水への酸素の溶解度がメタノールに比べて小さいため,含水量とともに酸素の拡散限界電流が小さくなり,カソード反応が律速するようになったためと考えられる.使用環境からの混入が予想される代表的な不純物の一つであるCl^-イオンの影響を調べた結果,Al合金はメタノール溶液中で明確な孔食電位を示さず,Cl^-イオン濃度の増加とともに連続的にアノード溶解電流が増大し,1000ppmでは100ppmに比べ溶解電流がおよそ3桁も増大した.このことからメタノール中で生成するAlの酸化被膜はCl^-イオンの存在下では容易に溶解し,腐食反応に対する抑制効果が小さいことがわかる.また,インピーダンス測定の結果,RcrはCl^-が1000ppm存在すると約1桁減少したが,Cdlは1週間の浸潰後もほとんど変化しなかった.このことからAC8A合金は酸化被膜の不安定な箇所より局部的に腐食反応が進行するものと考えられる。
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