Research Abstract |
痴呆の中核をなすAlzheimer型痴呆(DAT)と多発梗塞性痴呆(MID)の鑑別は必ずしも容易でない.聴性中間反応(MLR)は上行性網様体賦活系および視床の機能を,聴性脳幹反応(ABR)は脳幹の機能を,また体性感覚誘発電位(SEP)はその潜時によって脳幹から大脳感覚皮質までの機能を反映する.我々は既にネコを用いた動物実験において,中大脳動脈閉塞時にSEPの振幅が著明に低下し,再開通後脳機能回復の程度に従ってSEP振幅が再上昇することを確認した.この現象はヒトMIDにおいても見られることが予測され,さらにMLRやABRでも同様の変化が期待される.本研究の目的は,従来潜時のみが注目され振幅はデータに成りえないとされてきたこれらの電位が,DATとMIDの機能的鑑別と病態評価に使用できるかどうかを検討することにある.方法:1)Alzheimer型痴呆の臨床診断はNINCDS-ADRDA,DSM-III-Rの基準により行い,これらの患者をDAT群とする.2)多発梗塞性痴呆の臨床的診断は,改訂長谷川式簡易痴呆検査スケール(HDS-R)22点以下,Mini-Mental State Exam(MMSE)26点以下,Hachinski Ischemic Score 7点以上の基準により行い,これらの患者をMID群とする.3)ERPには聴覚刺激によるオッドボール課題(計数および反応時間課題),MLRには1.1Hz,0.1ms,90dBの低頻度クリック刺激,ABRには10Hz,0.1ms,90dBクリック音刺激,およびSEPには正中神経1Hz,0.2ms,運動閾値の115%の電気刺激(両側別々)を用いる.いずれも装置には現有設備である日本光電Neuropack8を用いる.4)ERPにおいてはP300頂点潜時を計測し,DAT群とMID群で統計学的比較をおこなう.またP300頂点潜時とHDS-R,MMSEの相関を両群で比較する.5)MLRにおいてはPbの出現率と振幅を両群間で比較し,またHDS-R,MMSEとの関係を検討する.6)ABRにおいてはI〜V波間潜時(CTT)の平均値を両群間で比較し,またHDS-R,MMSEとの関係を検討する.7)SEPにおいては左右2回づつのN20振幅(mA)の平均値を用い,この数値を両群間で比較し,またHDS-R,MMSEの相関を両群で比較する.結果:DATにおいてERPはMMSEが比較的高い例で検査可能であり,これらの症例ではP300潜時が延長した.MLRではPbが半数で欠如した.SEPでは潜時・振幅は正常または軽度低下した.一方MIDではERPは大部分の症例で検査可能であり,P300は欠如例と延長例があった.MLRのPbは欠如例と延長例が見られた.SEPでは潜時・振幅は正常または軽度低下したが,軽症MIDではむしろ振幅増高例が見られた.
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