Research Abstract |
解剖学的に開口筋には筋紡錘が存在しないか,あるいはごく少数であることが明らかにされて以来,電気生理学的にも開口-閉口筋には四肢筋に見られる相反性抑制機構が認められていない.本講座の倉沢らは,咬筋ならびに舌骨下筋筋紡錘由来の求心性情報は,主として,それぞれ開口ならびに閉口運動時の顎位の制御に関与することが示唆されることを明らかにした.一般に,腕などにおける随意運動時の位置的制御にについては,運動により伸張される筋,すなわち拮抗筋由来の求心性情報の関与が有力視されている.これらのことから本研究は,咬筋ならびに舌骨下筋,特に胸骨舌骨筋との機能的相互作用(相反性抑制機構)の可能性について解析を行った.被験者は「説明と同意」を得た健常者とした.実験計画にしたがい,運動ニューロンの興奮性変化の指標はH反射応答を用いた.被験者に咬筋の筋電図波形をオシロスコープでモニターしながら中程度の強さの持続的咬みしめを行わせた後,今回購入した電気的刺激装置を用い,表面電極を通して咬筋神経の経皮的電気刺激によりH反射応答を誘発させた.咬筋のH反射は,潜時約6msで誘発された.これはFujii et al.の報告と同一のものと考えられる.しかしながら,短潜時であるため刺激のアーチファクトと現象がオーバーラップし,現象として正確に測定することは困難であった.そこでpost-stimulus time histograms(PSTH)を用い,被験者がモニターを観察しながら習得した約5%M.V.C程度の,咬筋針電極により記録した随意性のユニット活動に対する,舌骨下筋由来の求心性神経の電気的刺激の影響を解析した.その結果,咬筋の随意性ユニット活動は,潜時約12msで7〜8ms持続する抑制効果が観察され,舌骨下筋由来の求心性神経による咬筋運動ニューロンへの抑制性機構が示唆された.詳細についてさらに検討を行っている.
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