Research Abstract |
きわめて精度のよい実験が解離性再結合過程(DR)についてできるようになったため,本年度の研究対象も引き続き解離性再結合過程にしぼり,理論計算の精密化と検証,それに基づく機構の解明を行った.計画当初予定していた光解離イオン化の研究は,計算方法の構成を考えるにとどまったが,この過程と解離性再結合は,物理的に同じ機構に支配されているため,明瞭な結論を得やすい過程から研究するのが得策と判断した.DRの機構は,解離性の二電子励起状態と分子イオンのポテンシャルが解離に都合のよいところで交差しているか,いないかで大きく異なる.前者の代表的分子はHD^+であり,後者はHeH^+である.これらの分子イオンについて,数値計算を実行した. HD^+については,衝突エネルギー約1eVを境に機構が異なる.低エネルギー側では分子イオンの振動運動のほか回転運動も重要になり,また配置間相互作用によって引き起こされる動的過程を取り扱う際にoff-the-energy-shellからの寄与を考えなくてはならない.私は,このことを,1993年に理論計算により示したが,今回の計算と実験結果の解析により実証された.結果はPhys.Rev.Lett.に実験と一緒に発表された.leVより高いエネルギーでは,二電子励起状態のRydberg系列全体と分子イオン電子励起チャンネルを考える必要がある.量子欠損理論を一電子励起状態と二電子励起状態両方に適用してこの問題を定式化し,計算を実行した.その結果,実験で現われるきわめて大きな断面積を説明するとともに,解離原子の電子状態の予測など詳細な情報,解離性励起(DE)の機構が明らかになった.これらについては,現在出版準備中である.計算はH_2^+についても行い,実験では得ることが困難である振動回転状態を指定したDRとDEの断面積や,振動励起の断面積のデータを集積した. HeH^+については,回転運動を考慮した数値計算を実行した結果,0.04eV以下の低エネルギーで回転運動により約一桁断面積が大きくなることを見い出し,機構の解明に大きな一歩を踏み出した.
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